「ウェブメディアにおいて、分析から改善を実施し、成果につながった具体例をご紹介いただけませんか?」
今回MediaTech編集部から上記内容で執筆の依頼をいただきました。本記事を読み始めた皆さんは、法人あるいは個人で何かしらの形でウェブメディアに関わっている方が多いのではないでしょうか?
そんな皆さんが、「自分でもこの取り組みを行ってみたい!」と思ってもらえるような具体例を紹介しておりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
せっかくのメディアや記事、より多くの人に届けたくありませんか?
さて、自己紹介が遅れました。ウェブアナリストの小川と申します。様々な事業会社で働いた後に、現在は自分の会社でウェブアナリティクスに関するコンサルティング、講演、執筆などの活動を行っています。複数のウェブメディアの分析と改善を今まで行ってきており、日本ビジネスプレスが運営する「JBpress」のChief Analytics Officerも勤めております。詳しい自己紹介は以下をご覧ください。
メディアにおける「成果」とは何なのか? 定義は色々あるかと思いますが、最終的には「大勢の方に沢山の記事を読んでもらい、読者の人生に何かしらの価値を提供し、自社にとっては収益に繋がる」なのかなと。
その成果に向かって改善できるポイントは多いかと思いますが、今回はメディア運営にかかわっている方、全員に役立つであろう、「複数の記事を閲覧していただく」という改善を実現するために、普段私が行っている分析についてお伝えします。
複数記事閲覧のためには、まず1記事を最後まで読んでもらう必要がある
複数の記事を読んでもらうために必要な事が2つあります。
まずは「1つの記事を最後まで読んでもらうこと」です。もちろん記事の途中で別の記事を読みにいく可能性はありますが、実態としては多くありません。1記事で複数ページある記事の場合、ページの途中から別の記事が閲覧されたという割合は(4メディアほど確認してみたところ)0.1%~2%と、ばらつきはあるものの全体的に少ないと言えそうです。
つまり記事途中での離脱のほぼ全ては、サイトそのものからの離脱に繋がっていました。離脱をしてしまうと、別の記事を読んでもらうチャンスを得ることができません。
そうなると、最大のチャンスは、記事を読み終わった後ということになります。そこで、「記事が最後まで読まれる」ために何が必要か? それを分析してみましょう。
分析をする際には分析ツールが必要ですが、中でも「アクセス解析ツール」と「ヒートマップツール」は優先順位が高いです。また施策を行うために「ABテストツール」もあるとよいでしょう。
筆者はアクセス解析ツールであれば「Google アナリティクス」、ヒートマップツールであれば「USERDIVE」「Ptengine」「ミエルカヒートマップ」、ABテストツールであれば「Google Optimize」を使う頻度が多いです。
まずはアクセス解析ツールを使って、「閲覧数が多い記事」その中でも「離脱率(ページを見てサイトを出ていった割合)や直帰率(このページに流入して、すぐに離脱した割合)が高い記事」を特定しましょう。サイトにとって改善の優先順位が高い記事を特定していきます。
例えば筆者のブログの例ですと、1位・6位・9位の記事は直帰率や離脱率が8割程度と高く、2位~5位あたりは直帰率や離脱率が5割程度と低いことが分かります。かなり数値が違いますね。
次に直帰率や離脱率が高い記事は、どこで離脱しているかをヒートマップツールで確認していきましょう。
ヒートマップツールが導入されていない場合は、Google アナリティクスでスクロール率を取得するための実装や設定を行うとよいでしょう。はてな公式ブログで記事を書いていますので、よろしければご覧ください。
分析をすると、離脱ポイントは大きく2つに分かれます。
1.スクロールせずに記事の最初で離脱する
2.記事の途中で離脱する
メディアによってこれらの割合は変わってきますので、対策の優先順位も変わります。それぞれに対する改善事例を紹介します。
1)スクロールせずに記事の最初で離脱する人が多い場合
記事を見に来たはずなのに読まないで帰ってしまう、間違えて来てしまったなどを除くと、最初の段落で期待を裏切ってしまっている可能性が高いです。
記事を書く際には、「記事の目的」と「結論」を先に書いてあげることが大切です。この記事は読むべき価値があることを最初に伝えましょう。本記事の最初でも、この内容を意識した書き出しにしています。
例えば皆さん、「成田空港から羽田空港への移動」に関する記事だったら、どのように書き出しますか? 少し考えてみてみましょう。
筆者だったら、このような書き出しを考えます。
成田空港から羽田空港への移動方法は約1時間半。移動方法はリムジンバス・電車・タクシーなど多数あります。特に初めての方はどの方法を使えば良いか悩むのではないでしょうか? 安さ優先、早さ優先などのニーズ別に応じたオススメの移動方法を成田空港の到着口から羽田空港の搭乗口まで写真&時間付きで紹介いたします!
記事の目的と結論を先に書き、「これは自分にとって価値がある情報」だと思ってもらうことです。今回の記事も、それを意識した書き出しになっています。
記事タイトルや導入部の工夫については、以下の記事がとても参考になりますので、あわせてご覧ください。
2)記事の途中で離脱してしまう
こちらは記事の中身や質によって左右されてしまうため、分析から改善案を出すのが難しいケースです。まず分析で見るべきポイントは、ヒートマップやスクロール率を見て「リンクが無いけど離脱が多い(=スクロール率が下がりやすい)」箇所です。 離脱が高い部分の記事内容は、短くするか書き換えるかが良いでしょう。
そして効率を考え、閲覧数が多い記事を優先して改善活動を行うといいでしょう。
長年分析した経験として、離脱しやすいポイントとしては2か所あります。
「(画像や見出しが無く)文章がひたすら続く場合」そして「(複数ページの記事がある場合)1ページ目から2ページ目の間」です。
こちらは2017年にJBpressで数万件の記事を対象に集計を行った、次ページへの平均遷移率(PCおよびスマートフォン<SP>)です。
1ページ目⇒2ページ目 PC:75% SP:70%
2ページ目⇒3ページ目 PC:91% SP:82%
3ページ目⇒4ページ目 PC:93% SP:88%
4ページ目⇒5ページ目 PC:93% SP:90%
記事を最後まで読んでもらうためには、いかに1ページ目から2ページ目に移動してもらうかが重要です。そこで、続きを読みたくなるようなタイミングで移動してもらうことが大切です。
ちなみに「次ページの見出し誘導(下記画像上部)」と「ページネーションでの誘導(下記画像下部)」のクリック率はメディアによって変わります。
したがって、基本的には両方入れておくことが大切です。
最後まで連れてくることが出来たら、次の記事を案内する
複数記事を読んでもらうために最も大切なチャンスは、「記事を読み終わった後」のタイミングになります。この読み終わりのタイミングをどう活用すれば良いか。ポイントは記事を案内するタイミングになります。
記事を読み終わった後に帰ってしまうことは、読者にとっても自然な動きです。しかし、せっかくだから他の記事も読んでもらえたら嬉しいですよね。多くのメディアはそう考えて、オススメの記事やランキング、新着記事を、記事の「後」に入れています。
このようなレコメンドは確かに効果があり、何もリンクが無ければ100%離脱するところを、他の記事を見てもらうことに一役買っています。しかし、「記事の後」では意味がありません。大切なのは「記事の最後」に入れることです。
「後」と「最後」は似たような用語ですが、意味が大きく違います。記事の後は本文が終わった後のページネーションやソーシャルボタンの下にあるパターンです。記事の最後とは記事の本文内(つまりページネーションやソーシャルボタン)の手前に入れる必要があるという事です。
なぜ、本文内に入れる必要があるのか? それはヒートマップツールでデータを見てみると分かるのですが、多くの読者はページネーションやソーシャルボタンより下にスクロールしないためです。
皆さんも、これらパーツがあると、それより下には記事本文は無いと自然と思っていませんか? ですがその結果、これより下部に他の記事への誘導があっても見てもらえないのです。だからこそ、記事本文内に入れるとよいでしょう。
以下の画像を見て下さい。
それぞれ「記事の最後(もっと知りたい!続けて読む)」と「記事の後(あわせてお読みください)」にリンクがあります。以前は「あわせてお読みください」しかなかったのですが、「もっと知りたい!続けて読む」を入れたところ、リンクのクリック率が5倍(約1%から5%)に増えました。
まだこの施策を自社メディアで行っていない場合は、ぜひ試して欲しい施策です。
さて、記事の最後が大切という内容を紹介しましたが、実は記事の最初を活用するというテクニックもあるので、そちらを紹介いたします。
読者が読んでいる記事の関連記事がある場合は、記事の冒頭で紹介しておくという方法です。
例えば筆者のブログでも、以下のようなリンクを入れています。
記事の上部に入れておくことで、合わせて読んでもらえる可能性が大きくなります。特にPCはタブブラウザということもあり、本記事を読む前に他の記事のリンクを開いてもらえる率が高くなります。筆者のブログでも分析してみたところ、ページ上部のリンククリック率はPCの方がスマホの3倍ほど高いという傾向が出ました。
なお、紹介すべき記事の優先順位は以下の通りです。
1.該当記事がシリーズ物や前編・後編へのリンク
2.該当記事の前提知識となる記事
3.該当記事で最も重要なキーワードに関する、人気が高い記事
最後に
記事を複数読んでもらうために、分析を元にした事例をいくつか紹介いたしました。今回紹介した内容は多くのメディアで活用できるか思います。しかし大切なのは、事例そのものではなく、分析を元に自社にあった改善施策を導き出していただくことです。
分析活動によるメディアへの成果貢献は、以下の式で表すことが出来ます。
成果貢献 = 施策数 × 施策成功率 × インパクト
今回は施策成功率を上げるためのヒントをいくつか紹介しました。インパクトに関しては、「閲覧数が多いページ」「数値が平均と比べて悪いページ」を改善対象とすることで上げることが出来ます。
しかし最も大切なのは「施策数」です。施策を実行しない限り、サイトは改善されません。そのためにも施策を実行しやすい環境を用意しましょう。「Google Optimize」などのABテストを気軽に行える環境を作るのも1つの方法です。
実際にJBpressでも最後に紹介した「もっと知りたい!続きを読む」のエリアに関して、要素を変えるテストを現在行っています。
本記事の序盤で紹介した、私のブログの数値は、今回紹介した内容をかなり盛り込んでおり、工夫をすれば直帰率や離脱率50%が狙える数値であることを実感しています。
また、今回はあくまでもテクニックを中心に紹介しましたが、集客と記事の内容自体が大切なことは言うまでもありません。しかし、せっかく良い記事を書いても見せ方で損してしまってはもったいないので、ぜひ今回紹介した改善事例や分析の考え方を取り入れて、より多くの読者の多くの記事を届けていただければと願っています!!
著者紹介
小川 卓(おがわ・たく)
ウェブアナリストとしてリクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパン等で勤務後、独立。複数社の社外取締役、大学院の客員教授などを通じてウェブ解析の啓蒙・浸透に従事。株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役。
主な著書に『ウェブ分析論』『ウェブ分析レポーティング講座』『マンガでわかるウェブ分析』『Webサイト分析・改善の教科書』『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』『「やりたいこと」からパッと引ける Googleアナリティクス 分析・改善のすべてがわかる本』など。
本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。