Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

書評:トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか 無知礼讃と民主主義』

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日本では検索エンジンが最も信頼されている。

27カ国、3万3000人を対象にしたEdelman Intelligenceによる信頼度調査は、日本人はソーシャルメディアやオンラインメディアよりも検索エンジンに「ニュースや情報に関する情報源の信頼度」を置いていることを明らかにしました。

 

わからないことがあれば、とりあえず検索をする。そこで出てきた情報を信頼する。それはもちろん日本に限った話ではありません。トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか 無知礼讃と民主主義』(高里ひろ訳、みすず書房、2019年7月刊)はアメリカにおけるテクノロジーと反知性主義の関係を論じた1冊で、「ちょっとググってみますね」という検索行動の功罪にふれた章もあったりします。

 

専門知は、もういらないのか

専門知は、もういらないのか

 

 

筆者は国家安全保障問題が専門のアメリカ海軍大学校教授だそうですが、タイトルからも分かる通り、基本的な内容は昨今の「反知性主義」への嘆き節です。『アメリカのデモクラシー』で歴史家トクヴィルがすでに指摘していたアメリカがベースにしている「専門家や権威への不信」。2016年の大統領選挙でトランプが共和党ウィスコンシン大会で聴衆に語りかけた「専門家はだめだということです」発言などなど。

本書はトクヴィルからトランプまでの約180年の時間軸を据えながら、テクノロジーの変化、メディアの変化に着目して、人々が専門家の意見に頼らず、全部自分で判断できると思い込んでしまった世界の不安を訴えます。

ジャーナリズムに関して論じた章「『新しい』ニュージャーナリズム、はびこる」では、こうした状況をもたらしたのは「人々が24時間ニュース漬け」にされたせいだと述べます。テクノロジーの進化がもたらした「双方向性」(SNSなどでなるべく早くニュースに反応しなきゃという切迫とストレス)と「情報過多」(一人で消化できないほど大量のニュース断片とそれが届く速度)は、まるでホワイトハウスの地下にある状況分析室「シチュエーションルーム」そのものだと皮肉まじりに。

ここにおいて個人は自分の気に入ったニュースを選び取り、そうではないメディアへは不信や嫌悪感をもつ。2014年のギャロップ世論調査でアメリカ人の4割が「メディア不信」だったことは、そんな独りよがりのニュース受容を物語っていると言います。

こういった調子で、結論に至っては「悲劇的なことだが、この問題の解決は、今のところ予想不可能な惨事にあるのではないかとわたしは思っている」と暗い感じで本は終わっていくのですが、本当に明るい兆しはないんでしょうか。

まさに検索しても答えが見つからない問題です。テクノロジーが生み出した「情報過多」と「双方向性」がもたらすニュースストレスこそ、テクノロジーによって解決できるのではと思ったりもするのですが。

 

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。

著者紹介

谷村友也(たにむら・ともや):1980年、北海道生まれ。スマートニュース メディア研究所に在籍。文藝春秋での勤務を経て、現在はスマートニュースの子会社、スローニュースにても勤務中。