Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

地道な採用ブランディング 内製化進め、部門半数がエンジニアに (1)日経電子版【デジタル人材戦略】

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人材採用サイト「HACK THE NIKKEI」を紹介する澤紀彦さん

デジタルメディアが定着して久しいが、めまぐるしく技術が進歩する時代に組織をアップデートし続けるのは容易ではない。テクノロジー人材の獲得、定着に向けた文化醸成、成長への動機付け。難課題に対峙する各メディアに人材戦略を聞いた。

■「エンジニアを増やさないと」

「日本経済新聞社はテクノロジーを駆使したメディア企業として、日本および世界経済への貢献を目指しています」 

同社のデジタル人材採用サイト「HACK THE NIKKEI」に哲学として掲げられている文の冒頭だ。

今年3月で創刊10周年を迎える「日経電子版」の企画・開発部門は、所属する社員約100人のうち半数がエンジニア。比率はさらに高まる見通しで、昨年中のキャリア採用と今春の新卒採用を合わせた計10人のうち、9人がエンジニアだという。

「もっと増えるでしょう。エンジニアを増やさないと事業が成り立たない雰囲気になっている」。そう語るのは、デジタル編成ユニットの荻野雅史部長。同社はアプリなどを開発するフロントエンドエンジニアを中心に内製化を進めており、ユーザの声や分析結果を受けて、迅速にUI/UXの改善に繋げている。

さらに2016年には独自のデータ収集分析基盤「Atlas」を構築し、運用をスタートした。同ユニットの澤紀彦さんは「(Atlasにより)ユーザのさまざまなアクションを思うがままに追跡することができ、データ保存、計測、分析がしやすくなった。フィードバックループを内製化することで、外注時より、ユーザのために考えつく施策の質が圧倒的に高い」と意義を説明した。

■ゼロからのスタート

そんな日経電子版も、2010年の創刊当時はすべて外部の開発会社に委託して制作されていた。純粋なエンジニア採用はゼロだった。

内製化へ舵を切るきっかけを作った一人が、創刊1年前にデジタル事業に横断的に携わる人材として採用された澤さんだ。学生時代にインターンをしていたスタートアップ企業と比較して「ずいぶんやり方が違うな」と、新入社員ながらもどかしく感じたという。

開発にあたっては、社内調整した仕様を外注先に伝えるところまでが業務範囲。ユーザの声を受けて修正が必要になった場合も、発注の都度社内承認が必要な上、発注後も納品に時間がかかっていた。

 

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澤さんは先輩社員と2人で、創刊当時なかったブラウザのスマホ向けサイトを、業務の合間に制作。社内の評判も良く、ユーザ向けにリリースするにいたった。社員自らがコードを書いて公開することで、低コスト・短納期のメリットを実際に示してみせた。

その後、2012年ごろから、まずはアルバイトとしてエンジニアを募集し、能力のある人材を正規のプロセスに案内する形で新卒採用を開始。学生たちには優秀な後輩に声をかけるよう伝え、口コミで間口を広げていった。「会社見学に来てもらったり、インターンとして働いてもらうことで、我々のカルチャーに触れてもらい、『新聞社は怖い』『スーツを着ないといけない』といった先入観に対して、『そうではないよ』と伝えていった」(澤さん)。

早速、新卒第1号のエンジニアに全文検索エンジンの制作に取りかかってもらうと、ウェブ向けの新技術により従来の検索エンジンより精度・速度とも大幅に向上したものができあがった。

■中長期のキャリア形成

現在、エンジニアは日経電子版部門以外も含めたデジタル事業関連部署全体で約80人にまでなり、組織づくりが軌道に乗り始めたからこそ、次の課題も浮上している。エンジニアの中長期的なキャリア形成だ。

荻野部長は「まさに会社として考えようとしているところ。ある程度キャリアを積めば、プロジェクトマネージャー的な仕事に移り、よりサービス開発に軸足を移していく道もあるし、技術を突きつめテクノロジー戦略を考えていく役割を担うようになることも考えられる」。澤さんは「色んな志向の人がおり、ビジネススキルも学びたい人もいれば、機械学習を学びたい人もいる。本人のパフォーマンスの最大化が会社の利益に繋がると考えており、社としては活躍できるフィールドを与えられていると思う」。

また、テクノロジーに力を入れている傘下の英メディア「フィナンシャルタイムズ」はエンジニア比率が日経より高く、参考になっているという。

■Kaggle Daysにデータ提供

学生バイトの口コミを皮切りに始まった採用活動も、より積極的な打ち手が必要となってきた。

「理系学生の職場として、従来は選択肢にも上がってこなかった」と、歴史ある新聞社ならではの難しさを語る澤さんは、就職先として想起されるための地道な採用ブランディングが重要と考えている。 

同社は昨年12月、都内で開かれた機械学習コンペティションイベント「Kaggle Days Tokyo」の課題用として、日経電子版のデータを提供した。同イベントに参加するトップレベルのデータサイエンティストたちに同社のデータに触れてもらい、ブログやSNSで情報発信してもらうことで、同社がデータサイエンスに力を入れていることを広く訴求する狙いだ。

無料登録会員を含む日経電子版の会員数は466万4583人(このうち有料会員は69万8627人、1月1日現在)を誇り、澤さんは「ユーザ数もアクセス数も記事や写真など自社データ量も多く、解析しがいがあって魅力に感じられるだろう」と期待する。

「我々は媒体としての歴史は長いが、デジタルのための組織は生まれたばかり。意欲や能力があれば裁量を持って働ける環境だ。メディアの未来を一緒に築ける人に来てもらいたい」と日経での挑戦を呼びかけている。 

 (撮影:有野 寛一)

 

www.mediatechnology.jp

 

著者紹介

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荒牧航(あらまき・わたる)

スマートニュース株式会社コンテンツアソシエイト。慶應義塾大学文学部卒業、千葉日報社にて記者、経営企画室長、デジタル担当執行役員を歴任。日本新聞協会委員としても活動後、2019年9月にスマートニュース株式会社へ参画。中小企業診断士としてメディアコンサルティング等にも携わる。

 本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。