Media × Tech

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書評:出版社のTwitter“中の人”は何を考えてつぶやいているのか 『本の雑誌』2020年9月号

 

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私はTwitterが好きだ。あのなんともいえないゆるさと自由さ、時に荒っぽさがある中で、皆が本音やどうでもいいことを吐き続ける場所がなんとも心地よい。もちろん誹謗中傷はいただけないが、炎上だってTwitterの味の一つであると思う。そして何より、日々の生活における私の情報収集はTwitterがメインなのだ。

 

そんなTwitterは多くの企業やサービスも活用している。プレスリリースやお知らせ、決算といった真面目なツイートをしているアカウントもあれば、企業アカウントながら個人のようにゆるいツイートをするアカウントもある。そういった企業やサービスのアカウントをフォローしている人なら、一度は“中の人”のことが気になったことがあるだろう。今回はそんな中の人や企業アカウントを特集した雑誌を紹介したい。本の雑誌社から出た『本の雑誌』2020年9月号だ。

 

本の雑誌2020年9月号では「つぶやく出版社!」と題して、出版社のTwitter動向 や 中の人の対談やインタビューについて書かれている。冒頭で述べたとおり、私はTwitterが大好物のため、この手の特集は「待ってました!」感がとても強い。

 

この特集の内容は下記の通り。

・中の人座談会
・中の人適性試験
・ツイッタラー編集者対談
・成功や失敗などのアンケート
・出版社アカウントフォロワー数調査
・読者のおすすめアカウント


みなさんの“中の人”適性は?

読んだ中で印象に残ったことをいくつか書き出したい。

まずは国書刊行会(@KokushoKankokai)、早川書房(@Hayakawashobo)、東京創元社(@tokyosogensha)による中の人座談会だ。中の人の適性を考えるという企画で、座談会の中で会社からの評価や売上につながっているのかという点に言及があった。気になる答えは「評価にならない」「売上につながったかどうかは観測できない」といずれもポジティブな話ではなかった。

 

それでも中の人の皆さんはユーザーの反応を糧にして日々工夫している様子が見て取れた。どうしたら反応が多いツイートになるのか、会社のキャラクターを壊さないために何に気を付けなければならないのか……など、中の人が日々何を考えて投稿しているのかが伝わる内容だった。

 

中の人の皆さんは、この座談会に出てくる「中の人適性試験」をぜひ試していただきたい。「あの本はいつ出ますか?と聞かれたら」「あなたの会社のアカウントが炎上してしまいました。どうしますか」「強力に押したい新刊をTwitterで宣伝しようと思います。どうしますか」「上司から1ヶ月でフォロワーを1,000人増やせと命じられました。どうしますか」の 4つの問いから答えを選び合計点数を算出するのだがこれが興味深い。


ツイッタラー編集者たちのTwitter運用ポリシーとは

次に紹介するのは、ツイッタラー編集者対談「黒子ばかりではいられない!」と題した、早川書房の溝口力丸氏(@marumizog)と、竹書房の水上志郎氏(@chikushobo02)による対談について。両者ともに会社の公式アカウント運用経験がある中で、個人のアカウントを持ち自由なツイートをしているという共通点がある。

 

個人といえど 両者ともに実名を出した上でアカウント運用をしているため、常に読者が見ている舞台上にいるという意識があるという。この対談では個人アカウント開設の経緯をはじめ、ツイートテクニックの話やTwiiter運用ポリシーの話が具体的で参考になった。特に「ネガティブなことは極力言わない方がいい」という点は私も同意。今こうして書いている瞬間もたくさんの喜怒哀楽が渦巻くTwitterだが、やはり人はポジティブなものを見て、元気になったり応援したい気持ちにもなったりするものだからだ。

 

コロナ禍の中で工夫したフォロワー増加戦略

最後は、出版社アカウントフォロワー数調査の特集。新型コロナウイルスの影響で、人々がインターネットと接続する時間が伸びた。その中で、3月から6月までのコロナ自粛期間中でフォロワー数を伸ばした書籍系アカウントの調査に触れたいと思う。

 

書籍系アカウントの調査となると、外せないのがKADOKAWA勢。あえて「勢」と書いたのは、KADOKAWA系のアカウントの多さから。この特集における調査30アカウント中10アカウントが同社のものだった。費用対効果を考えた上でのヒトモノカネのリソース投下してくる横綱相撲はKADOKAWAならではだろう。

 

興味深かったのは、KADOKAWA含め調査の上位アカウントは共通してキャンペーン施策を活用していた点。フォロー&リツイートを応募資格として Amazonギフト券や書籍を抽選でプレゼントするなど様々な施策があるが、この施策で多くのフォロワーを短期間で獲得した話はおもしろかった。この施策で発生した支出についても少しだけ触れられていたが、お金をかけずに反響を呼んだ事例は多くのアカウントで参考になりそうだ。


会社の垣根を超えたハッシュタグ

キャンペーン施策が多く使われた以外にも、コロナ禍では会社の垣根を超えた工夫が話題を呼んだ。文藝春秋プロモーション部の呼びかけで始まった「#こんな時だからおすすめしたい本」というハッシュタグだ。各社が相乗りして反響を呼び、Twitterから始まったハッシュタグという工夫は、結果的にテレビや新聞も伝えるまでに拡大。コロナ禍の中で持て余したユーザーの時間を埋めただけでなく、ユーザーが各出版社のアカウントや新たな作品に出会うきっかけとなった。

 

今回の「つぶやく出版社!」の特集を読んで、各社の工夫が垣間見えたのと、一つ一つのツイートに対する考えや想いが伝わってきたことがとても印象的。思うのは、100個アカウントがあれば100の味があって面白いということだ。同じ出版社のアカウントでもポリシーや投稿者によって一つとして同じものはない。昨今の監視社会的な動きもある中で、公に発言することが難しい時代になってきているが、各社のアカウントがどんな味を出してくるのか。これからもその味を噛み締めていきたい。

 

ちなみに、私は中の人適性検査は75点でした。意外と中の人としていけるかもしれない。そんなことを考えながら今日もタイムラインを追いかけます。

 

著者紹介

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山﨑 俊彦(やまざき・としひこ):スマートニュース シニアパートナーリレーションズアソシエイト。2008年にモバイル広告代理店へ入社し 広告営業や新規事業、アライアンスを担当。大手ネット広告代理店や大手webサービス企業への出向や常駐も経験。その後、人材サービス会社を経て、2017年9月スマートニュースに入社。インターネット業界情報を発信するブログ「東京都立 戯言学園」を個人で運営するほか、ライターなどとしても活動。Twitterアカウントは @mods104