Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

「そこに愛はある」と言えるコンテンツマーケティングは、いつしかビジネスモデルになる

Media&Techブログ読者の皆様、はじめまして。(株)JADEというウェブコンサルティング会社で代表を務めております伊東周晃と申します。

今回は、「コンテンツマーケティングとビジネスモデル」というテーマでお話ができればと思っております。特に、昔からメディアを運営されてきた皆様には、ムービング・オーディエンスという考え方が、ここ最近メディアを立ち上げた皆様にはビルディング・オーディエンスという考え方が参考になると嬉しいです。

では、始めます!

皆さん、企業サイトでEメールアドレスや電話番号など個人情報を登録して、市場動向レポートのような資料をダウンロードすると、直後にその企業から電話がかかってくる、みたいな経験、最近増えてないでしょうか。

少し前、私はあるサービスの価格表をダウンロードするのにEメールアドレスと電話番号が必要で、登録してダウンロードすると、30分後にセールスの方から電話がかかってきました。そしてメールもガンガン送られてくるようになりました。

電話やメールが来ること自体は、問題ないんです。

ただダウンロード直後は、私としては「これからまさに知識をインプット」するタイミングなので、人と話はしたくないタイミングなんですよね。知識武装もできていないし、なによりまだ気持ちが高まっていない。

似たような経験をするたびに、私の頭の中では大地真央さんが、昨年出演していたあのCMで言っていたフレーズがリフレインするのです。

「あんた、そこに愛はあるんか?」

一方で、送られてくると必ず読むメールマガジンやニュースレターがいくつかあります。

発行者のことは、その方のコンテンツ(記事、イベント講演等)を読んだり聞いたりして感銘を受けたことがきっかけで、私のほうからEメールアドレスを登録して、情報を受け取ることにしたものがほとんどです。

必ず読みたいメールについては、私の場合、スパムブロッカー機能が強力なメールサービスのHey.comのほうで受信するように購読登録の際にメールアドレスを使い分けるようにしています。

個人のGmail受信トレイがあまりに不要なメールで溢れてしまい、サービスの認証用以外では既存のメールアドレスは使わないようになってきている今日この頃です...。

ターゲットオーディエンスは長期のポテンシャルに影響する

ここで、将棋の「手順前後」という概念をご紹介させてください。。

ある場面で、AとBという候補手がある場合に、Aを先に指してからBを指せば局面を有利に進められるが、Bを指してからAを指すとうまくいかないケース等でよく使われる表現です。

冒頭のお話は、この「手順前後」にとても良く似ています。

  • 個人情報(Eメールアドレス、電話番号)を先に渡してから、コンテンツを享受するのか?
  • コンテンツを享受してさらに満足するために、個人情報を渡すのか?

前者の動機は目の前にぶら下げられているコンテンツが「今」欲しい、後者の動機はコンテンツ発信者と「今後も」繋がりたい、です。

ビジネスとして魅力を感じるターゲットはどちら? と問われれば、「後者」と多くの方は考えるのではないでしょうか。

この「指し手」の前後の違いが、長期で見た関係構築のポテンシャルの広がりに大きく影響してきます。。

コンテンツマーケティングの2つの側面:ムービング・オーディエンス(Moving an Audience)とビルディングオーディエンス(Building an Audience)

2020年10月にコンテンツマーケティング業界最大のカンファレンス「Content Marketing World」の記念すべき第10回が、バーチャルイベントとして開催されました。

本イベントの基調講演で、コンテンツマーケティングインスティテュート(イベント主催団体でコンテンツマーケティングに関する教育・啓蒙を行っている;以下CMI)の、チーフストラテジーアドバイザーのロバート・ローズ(Robert Rose)氏は、ムービング・オーディエンス(Moving an Audience)ビルディング・オーディエンス(Building an Audience)という概念を用いて、オーディエンスへのアプローチの仕方の違いを対比的に説明してくれました。

 

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図の上段がムービング・オーディエンス(Moving an Audience)。下段がビルディング・オーディエンス(Building an Audience)。出典:https://contentmarketinginstitute.com/2020/07/gated-content-audience-journey/

ムービング・オーディエンスとは、Gated content(コンテンツを取得するのにゲート(玄関)=個人情報登録が条件となるコンテンツ)などでリードを獲得し、それを取引発生に向けて前に前にとステップを押し進めていく線形のファネルで管理していくオーディエンスとの向き合い方。直接的に顧客化を志向する方向性です。

ビルディング・オーディエンス(本記事中、オーディエンスビルディングという言い方もする)は、有益なコンテンツで価値をまず提供し(Deliver value first)、興味を持って継続的に繋がりたいと思ってくれるオーディエンスを、そのビジネスの商品・サービスを買ってくれる/買ってくれないに関わらず顧客のように扱い、大きな「オーディエンスのグループ」を作りあげ、そのオーディエンスグループから「情報ソースとしての信頼」を得ることを目指します。オーディエンスとの関係の深化を通じたアセット構築を志向する方向性です。

ローズ氏は、この2つは対立概念ではなく、オーディエンスのカスタマージャーニーの中で交わり合う瞬間がある(上図の点線上を動く)、と言います。

その交わりの瞬間の体験をシームレスに提供すること(Connected experience)が大事で、そしてそこを計測すべきです。コロナ禍を経てフィジカルなコミュニケーションが減少しデジタル体験の洗練が求められていく今、まさに企業の力(Company muscle)になってくると言います。

 

ムービング・オーディエンスは短期成果に向いていて、ビルディング・オーディエンスは長期的な取り組みであるということはなんとなくお分かりいただけるかと思いますが、後者を意識的に戦略として組み込むことで、伝統的なファネルマーケティングも進めやすくなります。

なぜなら、ビルディング・オーディエンスは企業に対しての「信頼」を時間をかけて高めていくため、下図のように伝統的なファネルの開始段階でのアドバンテージを期待できるからです。

 

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プロフィットセンターとしてのコンテンツマーケティング

上述した2つの概念を、「いわゆる刈り取りをより効果的にすすめるためにオーディエンスビルディングはあるんだな、だからムービング・オーディエンスが主でビルディング・オーディエンスは従だな」と、認識された方もいるかもしれません。

これに対して、CMIファウンダーで、「コンテンツマーケティング」という言葉を生み出したジョー・プリッツィー(Joe Pulizzi)氏は、ローズ氏との共著『Killing Marketing』の中で、コンテンツマーケターは、プロフィットセンターとしてのコンテンツマーケティングを志向すべきだと述べています。

「今日、メーカーとメディアには本質的にはビジネスモデルの違いはない。私達は、“オーディエンスビジネス”の世界にいるのだ」というのが彼の考えです。

例えば......

 

「レゴ社」

子供向けのブロックおもちゃで有名なメーカーであるレゴ社は、自社の特許の期限が切れ優位性を失いつつある状況において、オーディエンス(子供や両親)との関係づくりにフォーカスを当てています。今では世界で最も視聴回数の多いYouTubeオーディエンスを有する存在の一つとなっており、レゴムービーなど「コンテンツ」を制作し届ける企業に変化しています。

参考リンク)子ども達がただのプラスチックのブロックを好きな理由を、レゴ社のソーシャルメディアディレクターが明かす(英語)

 

「クリーブランドクリニック」

米国オハイオ州にある同病院は、オウンドメディア「Health Essentialsを通じて高品質なヘルスケア情報を提供し数百万人の読者から支持を獲得。また、Googleの医療コンテンツの提供ソースの一つにもなっています。病院のビジネス以外に、同ブログは広告事業も展開しビジネスモデルの柱になっています。それは病院に訪れる患者からではなく、同ブログに情報を探し求めて訪れる全米のオーディエンスの価値をレバレッジすることでもたらされています。

 

このように「メーカーはモノを売って稼ぐ」「病院は地域の患者を診察して対価を得る」と考えられていたところに、コンテンツを通じてつながったオーディエンスとの関係価値を新しいビジネスモデルに昇華し、マネタイズにつなげる事例が出てきています。これは、あたかもメーカーや病院がメディア企業のように振る舞い始めている状況であり、この意味において「メーカーとメディアに違いはない」と考えるわけです。

 

さきほど、ビルディング・オーディエンスのご説明の中で、「買ってくれる/買ってくれないに関わらず顧客のように扱う」と、書きました。

オーディエンスビジネスの文脈では「今あるビジネスモデルでは買わない人たちも、オーディエンス理解に立脚して別のビジネスモデルを構築できれば買ってくれる人になり得る」と、言えるわけです。

 

オーディエンスの価値をレバレッジして、本業を再定義してみる

もう1年以上、コロナ禍の状況がつづいています。

この状況において、私がビジネスの観点で感じたことは、「レベニューストリームの多様化」の必要性でした。

人によっては、「需要が蒸発しても数年耐えられる財務力の強化」と考える人もいるかもしれません。色々な見方があるでしょう。

私が事業会社にいたころも、「もともとの本業の強化」と「事業の多様化」との優先順位のせめぎ合いが常にありました。

とても判断は難しいところです。

しかし、さきほどご紹介した例などを見ても明らかなように、「本業ってなんだろう?」と改めて考えてみることは必要です。

昨年ご縁があり、CMIファウンダーであるジョー・プリッツィ氏にインタビューしました。その際彼は「コンテンツマーケティングはこれから第三のステージに入るだろう」と予測していました。

markezine.jp

リーマンショックなどの大きな経済不況の後に、コンテンツマーケティングは変化を遂げながら市場を伸ばしてきたと言います。

 

一つ極端な例を挙げます。

このコロナ禍において、遊園地などのアミューズメント業種は大変な打撃を受けました。あのディズニーランドも例外ではありません。

が、その一方で、ディズニーのオンラインコンテンツ配信サービス「Disney Plus」はローンチしてからの約1年で、1億人以上のサブスクライバーに到達したことはご存知でしょうか。

NetflixのCEOは、当初「1年で6000万サブスクライバー到達も難しいだろう」と予測したそうです。その数値を大きく上回る成長を遂げたのでした。

参考リンク:Disney Plus surpasses 100 million subscribers(英語)

 

他にはないほどの高品質なコンテンツを豊富に保有している同社ですが、と同時に多くの熱烈な「オーディエンス」がいることが、この大きな変化対応(レベニューストリームの多様化)の力の源泉になっているのだと思います。

もし、自分たちの事業がディズニーほどではないにしても、“オーディエンスビジネス“を展開できる資産がすでにあると思えるなら、すなわちオーディエンスとの関係において「そこに愛はある」と思えるなら、今のあり方にとらわれない「新しい本業」の創出を検討するのに、今は大変な時代ではあれど、本当に良いタイミングなのではないかと思います。

 

オーディエンス・カンパニーを目指しましょう。

 

 

最後に...

株式会社JADEから、熱烈な採用情報のお知らせです。

当社は、検索マーケティングを中心としたウェブコンサルティング会社ですが、一緒に働いてくれるメンバーを募集中です。

職種は、「SEOコンサルタント」と「ウェブ広告運用者」です。

本稿に書きましたように、「お客様が運営するウェブサイトのオーディエンスの理解」に基づいて、各種ご提案を差し上げています。

ご興味ある方は、当社ウェブサイトからご応募いただくか、下記の伊東宛DMをいただいても構いません。ご応募お待ちしております!

 

▼弊社コーポレートサイト(採用ページが簡素ですみません。色々と有益なブログ記事もございますので、そちらもご覧いただきますと、雰囲気を掴んでいただけるのではないかと思います)

https://ja.dev

▼事業会社かコンサルティングなど支援会社かで迷われる方いらっしゃいまいしたら、こちらもご一読を!

理想のSEOをやるにはインハウスが良いか、コンサルが良いか(https://ja.dev/entry/blog/ito/ideal-seo

 

著者紹介

伊東周晃(いとう のりあき)

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株式会社JADE代表取締役。同社では、「Growth & Integrity」をコンセプトに検索を軸としたウェブコンサルティングサービスを提供している。前職の株式会社ぐるなびでは、SEO、ソーシャルメディア施策、ウェブ解析、コンテンツマーケティング、広告、広報領域の執行役員を務めた。

Twitterアカウント:@noriaky