Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

サブスク、短期・低コストで導入支援 キメラが考える「コンテンツ届ける人も幸せに」の哲学とは?

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キメラ社代表の大東洋克氏(同社提供)

データ分析を得意としながらも、「データだけでは何も決められない」と独自のビジネス戦略支援を提供する企業がある。「キメラ」だ。記事コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」やサブスクリプション管理プラットフォーム「Ximera Ae」を国内メディアに提供し、ビジネスの成長をデータを活用して支援する一方で、メディア各社のミッションと施策の適合、あるいは「なぜ、そうなったか」のプロセス可視化にもこだわる。同社代表、大東洋克氏にその哲学を聞いた。(Media×Tech編集部)

コンテンツを作り届ける人たちも幸せに

--今年3月に、「Ximera Ae」をリリースした。「週刊文春 電子版」「あなたの静岡新聞」などすでに複数の国内メディアが導入してサブスクリプション(以下、サブスク)事業を展開している。御社サービスの強み、他社との違いは何か?

我々の大きなテーマは、「コンテンツを作る人・届ける人・読む人が幸せになる世界をつくる」。つまり、コンテンツを作り届ける人たちも幸せになってほしい、と考えて3つの事業を展開している。そのうちの1つが「Ximera Ae」だ。

多くのメディアでは、なかなかマーケティングやデータ運用に十分に人が割けないというペインがある。データを分析して施策に生かしたり、ABテストを回して最適化し続けたりといった業務が、メディアにとって金銭的にも人的にも負担が大きいのではないか。「Ximera Ae」はこの負担を軽くするねらいがある。

「Ximera Ae」では現時点、機能をあまり多くはつけていない。課金のプラン作成、ペイウォールの制御、会員管理、売上データの可視化を行える。機能を多く盛り込まないことで、運用コストを下げ、使い手の取り掛かりやすさをつくることで、かえってメディアにとって現実的な運用ができると考えている。

Ximera Aeを導入する場合)管理画面を使って、プランの料金や支払い期間の設定、ペイウォールに表示する文言の変更ができる。メディアがやることは、既存のCMSをそのまま使って、我々が用意したJavaScriptをはるだけ。開発期間を圧縮できるのがポイントだ。短いところだと1週間で導入できてしまう。コストも、月間1000万PV以下のメディアであれば月額5.5万円と決済手数料。ここでコストを抑えた分、メディアにはマーケティングコストをかけてもらいたい。

デジタルで新しいことをやる場合、いろいろなことをいかに簡易に試し、スピード感を持って検証して事業をグロースさせるかが重要だ。ベンチャーでは小さく生んで大きく育てることがセオリーだが、新聞社や出版社にとっても新規事業開発であれば小さく生んで大きく育てる考え方が必要で、その際にツールの実装が足枷になってはいけない。軽やかにサブスクを導入することが、メディアにとって、コスト面だけでなく事業戦略面でも大きな価値につながると考えている。

経験でやってきたことをデータで裏付け

--すぐにでもサブスクが始められそうだ。メディアの反応は?

費用感や導入のライトさで良い反応をいただいているが、これですぐにサブスクを始めたい、というメディアには、「ちょっと待ってください」と伝えている。(サブスクリリースの前に)事業設計のためのリードタイムをしっかり取るようにすすめていて、継続性を持って事業を行える体制づくりを提案している。

我々は「Chartbeat」を通じて、国内48メディア、月間約15億PV(8月末現在)を分析しており、どんなコンテンツが読まれているのか、どういうメディアが成長しているのかを見ている。その上で、既存の広告事業や紙の出版事業と(デジタル媒体の)サブスクが共存できる世界とはどのようなものだろうか、と考えている。サブスクだけを切り取ってその収益を最大化しようと考えているわけではない。

--ツールの提供・導入だけではなく、ビジネス戦略の支援も行うのか? 

「メディアパートナー」のサービス名で、デジタル部分だけではなく、どのようなターゲットにどのような価値を提供するのかといった事業設計を支援している。メディアが既存事業にサブスクを追加するにあたっては、他の事業領域との棲み分けや、どのようなステップを踏んでサブスク事業を進めていくか考えていく。ぶちあたるのは組織課題だ。経営コンサルのような支援の形になっている。そこが喜ばれているところもあって、熱心にやっている。

紙の販売部門・編集部門があるところであれば、編集局をどう活性化するか、どのように組織の最適解を作るか、という部分まで支援している。マーケティングファネルで言えば、認知のところから関わっていく。単に「こうしたら良いですよ」とレポートするのではなく、ハンズオンで課題の発見から支援している。

紙で生きてきた人がデジタルにどう向き合うのか、取り組むのかといったカルチャー作りが非常に重要で、新しい施策を打つだけではなく、これまで経験や勘でやってきたことをデータで裏付け、後押しすることもやっている。

各メディアのミッション達成が第一

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キメラ社ではメディア向けのオンラインウェビナーを定期開催している

我々は、明確に「データは何もしてくれない。データだけでは何も決められない」と考えている。

メディアはそれぞれミッションを持っている。各社がそのミッションを実現して、同時に収益化することがハッピーだと我々は考えている。データを使って何かが最適化されて収益が上がればそれが最高な結果だとは全然考えていない。データが何でもやってくれるという発想はダークサイドに陥りやすい。データで最適解を導く方法が、各メディアのやりたいことに繋がるかどうかが重要だ。各社のミッション達成が第一で、いかにデータを使って(ミッション達成の)精度を高められるか。

「数字が大きい」「この流入経路が良い」「あの記事のPVが伸びた」といった結果が、メディアとして成し遂げたいことに寄り添えているなら良いと思っている。ただ、国内のメディアは、プロセスの見えないマーケティングを嫌う傾向にある。データが最適解を導いて収益上がって良かった、とはならない。収益が向上しても、「なぜ上がったか」の理由を明確にしないと腹落ちしないところがある。 

--「なぜそうなったか」の理由を求める気持ちはよく分かる。ただし、一つひとつプロセスを可視化できるのか?

そこは我々の使命感だ。今後検討するプロダクトでは、その可視化を支援していきたいと考えている。数字が上がった下がったりを追いかけ続けるよりも、メディア各社の思いを形にすることを機械が助けていく方が良いと考えている。数字が下がった時も、どうして下がったのか仮説が立てられると良い。

--各メディアで社内の巻き込みを促すことはハードルが高そうだ。ミッションについても、普段から未来への目線合わせをしていない企業は必ずしも社内が一枚岩ではない場合がある。どう取り組んでいるのか?

紙も含めた読者が、現状どのような人たちで、メディアは読者のどのような課題を解決し、どのような価値を提供しているのか、といった議論に時間をかけている。そこでは編集、販売、広告営業の人も入ってもらって徹底的に意見をぶつけ合い、それぞれの立場から見た読者像や提供価値を明確にしていく。そこが一つのヤマだと考えている。そのヤマを越えられない会社がDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現することは無理だ。

各社共通して言えることは、自分たちが今取り組んでいることの意味を見出したい気持ちがある。意見をぶつけ合うことで、そこから見えてくる未来像はどこなのか?と次のステップに進んでいく。我々も一緒に神経すり減らしながらやっているところだ。

新聞社など既存メディアがDXを実現するためには、人・組織・組織文化の変化が必要だ。そして、テクノロジーに向き合うだけでなく、インターネットの特性を理解し、そのメリットを最大限に生かせるマインドを醸成することが重要だ。

コロナもあってこの1年で明確に潮目が変わったと感じていて、こういう組織課題に各社が向き合うようになった。紙への向き合い方、デジタルへの向き合い方、そしてそのバランスを組織としてどう取っていくのか。意識は変わってきている。

 

www.mediatechnology.jp

 

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筆者紹介

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荒牧航(あらまき・わたる)

スマートニュース株式会社コンテンツプログラミング・マネージャー。慶應義塾大学文学部卒業、千葉日報社にて記者、経営企画室長、デジタル担当執行役員を歴任。日本新聞協会委員としても活動後、2019年9月にスマートニュース株式会社へ参画。中小企業診断士としてコンサルティング等にも携わる。

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。