2023年がやってきました。2019年5月にスタートした本メディア「Media×Tech」は、今年で5年目を迎えます。2021年度に引き続き、編集部(と一部執筆陣)の面々が、2022年に感銘を受けたり夢中になったりしたコンテンツを振り返りました。コンテンツの積み残しを思い出したり、昨年のトレンドを総括するのにお役立てください。
2022年、読んで/見て/遊んでよかったコンテンツはなんですか?
杉山正明 著『興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後』
2022年は、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけになって“ユーラシア”への視点が、歴史観として欠かせない要素であると認識しました。「長いその後」とあるように、モンゴルがもたらしたインパクトは、いまのロシアの行動の内面にも大きな影響を及ぼしているとの理解を得られたことは、自分にはとても有益でした。
(藤村厚夫)
井上尚弥
2022年6月、レジェンドボクサーであるノニト・ドネア選手を2R KOと圧倒し、パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで日本選手初の1位に輝いた"モンスター"井上尚弥選手。12月にはアジア人初の4団体統一を果たすなど記録ずくめの1年でした。
ここでは、その偉業を私が有明アリーナで生観戦してきたことを自慢したいわけではなく、格闘技コンテンツの伝達において、2022年は大きな転換点であったことを指摘したいのです。
ボクシングでは、4月のゴロフキンvs村田諒太戦と6月の井上vsドネア戦はアマゾン・プライムで、12月の井上vsバトラー戦はdTVで、いずれも有料配信でした。また、キックボクシングでも、東京ドームに5万人を集めた6月の那須川天心vs武尊戦が直前になって地上波放送中止となり、ABEMAでの有料配信のみとなりました。那須川選手からは「地上波でやらないならやめてもいい」と格闘技の裾野が広がらなくなることを懸念した発言がありましたが、ペイパービュー(PPV)のトレンドは当面続くでしょう。
dTVでは、会員登録の急増によってシステムダウンするトラブルも発生しました。課金方式や視聴端末の変化は、中継を維持することを含めて新たな技術的な挑戦でもあるわけです。さて、2023年も引き続き、コンテンツそのものを楽しむことはもちろん、配信手法やビジネスモデルの変化、あるいはその影響にも注目していきたいと思います。
(荒牧航)
Mリーグと各選手のSNS
Mリーグとは麻雀のプロリーグ戦。個人競技である麻雀ですが、チームを作りチーム戦として競技します。
m-league.jp
プロの麻雀が観られる楽しさもありますが、一部の選手がそれぞれのYouTubeで当日の対局を振り返り、非常におもしろいです。
競技中は終始無言で行われ、それぞれの個性がわかりにくいのですが、SNSを通じて伝わる個性のギャップに惹かれる側面もあります。 (有野寛一)
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
鎌倉時代を舞台に、「義経と頼朝」「実朝暗殺」「承久の乱」など多くの人が知っている史実を踏まえながら、毎話毎話「えっ(絶句)」「そんなあ(ボロ泣き)」など感情が揺れ動かされるストーリーテリングに痺れました。
1年(全48話)という長い尺でしか描けない人生の物語でした。重厚かつ毎話の引きがエグいので、海外ドラマ好きの層も満足しそう。海外展開もしてほしいですが、海外の視聴者からすると登場人物の名前が似すぎているところがひとつネックになるかもしれません。でもそれを乗り越えて全世界に届いてほしいレベルのエンターテイメントだと思います。シェイクスピア好きやアガサ・クリスティー好きもグッとくるはず!(青柳美帆子)
「聴漫才」/「低空飛行 Podcast」
(1)「聴漫才」
芸人さんたちがPodcastで30分漫才をする、というコンテンツです。普段の漫才とは異なり、「どうにかして音で伝えなければ!」という空気と30分という長尺の設定が面白さのポイントです。ラジオと普段の漫才のちょうど間の雰囲気が絶妙なので、芸人さんが好きでオールナイトニッポンの切り抜き動画をYouTubeで聞いてしまう人にはおすすめです。
open.spotify.com
(2)「低空飛行 Podcast」
言わずと知れたデザイナー、原研哉さんが毎回ゲストを招きながら、観光と日本の未来資源を探索するPodcastです。さまざまなバックグラウンドを持つプロがゲストに来るため、どのストーリーも大変面白く拝聴させていただいております。とくに、6月の守屋貴行さんのバーチャルヒューマンというメディアのあり方についてのお話や、10月の西野嘉章さんのお話しされていた音声記録の良さ(美術館の記録が音声)などは、PodcastやVTuberといった近年高まりを見せるメディアのあり方についてお話が聞けてとてもよいのでおすすめです!!
(大塚健太)
本:若林正恭『ナナメの夕暮れ』 映像:「オッドタクシー」
『ナナメの夕暮れ』は、若林正恭さんが自分の生きづらさと向き合ってきた日々と考え抜く姿勢が書かれています。 読むたびに夢中になり、気づけば心が軽くなっている不思議な本です。 2022年は自分が社会人になり、慣れない環境の中で色々と思索することが多かった年でした。その分、2022年はこの本に立ち返る機会も多かったのかなと思います。その他だと、放送作家オークラさんが書かれた「自意識とコメディの日々」も好きでよく読み返しました。
『オッドタクシー』は2021年にアニメが放送されて話題になった作品で、2022年4月に映画が公開されました。 「動物キャラクターたちが現代社会と同様の生活を送っている」という世界観への伏線が回収された際は、思わず笑ってしまいました。世界観設定のうまさもそうですが、何の違和感もなくその設定を受け入れてしまっていた自分がすごく滑稽に思えました。
本来、そういった矛盾に対して身構えるっていうことは防衛本能として備わってそうなんですけど、すごく鈍っちゃってるんだなって痛感しました。また、アニメ本編とリンクしたオーディオドラマもよかったです。詳しい中身には触れませんが、アニメとあわせて聴くことで物語を立体的に楽しむこともできました。(守顕大)
クリスタル・パイト「Light of Passage」
イギリスの大学院に通いながら、Media×Techに関わっていた2022年。最初はミュージカルや映画に夢中でしたが、コロナ禍やウクライナ侵攻の鮮烈な映像や苛烈な言葉をSNSで目の当たりにするうち、言語を聞き取ることや情報量の多いコンテンツに疲れ、バレエやオペラのような古典芸能にハマることに。Light of Passageもその中で足を運んだ演目です。とはいえ、本作は古典ではありません。カナダ・バンクーバーを拠点に活動するコレオグラファー、クリスタル・パイトによるコンテンポラリーダンス作品です。
社会問題をモチーフに作品作りをすることに定評があり、世界的に知られているのは、難民問題に取り組んだ「Flight Pattern」です。私が見た新作「Light of Passage」は、第一幕が「Flight Pattern」、第二幕で国連が制定している「子どもの権利条約」に着想を得た新作「Covenant」(誓約)、第三幕で生と死をテーマに老齢のダンサー二人を主役に据えた新作「Passage」(経過、通路)という構成でした。難しいテーマに若干身構える部分もあったのですが、とにかく群舞がダイナミックで美しい。踊りに引き込まれているうちに、元となったモチーフについても体にしみこんでくる、とても素晴らしい作品でした。言葉を超えて物事を伝えることにストイックなパイトの作品を通じて、改めて「気分が沈む現実とどう向き合い、どう伝えるか」ということについて考えさせられました。(平松梨沙)
『原本 遠野物語』
奇跡のような過程を経て現代に蘇った『遠野物語』の初稿三部作の翻刻・復刻。内容もさることながら、後の世に残るメディアとは何か、コンテンツとは何かということを考えさせられた。(佐々木大輔)
2023年、どんなコンテンツに期待する?
- 戦争は終わっていませんが、OSINTなどの手法を駆使してこの戦争をめぐる多角的な検証が出現してくるはずです。戦争を巡る新しいストーリーテリングが現れることに期待しています。(藤村)
- 井上尚弥(荒牧)
- podcastのマネタイズ:2022年には非常にpodcast(個人や企業問わず)が増えた年だったと感じます。よりよいコンテンツが永続できるためにマネタイズできる仕組みや、スポンサードコンテンツなどが充実するとよいと期待します。(有野)
- 2022年はほかにも「エルピス」「ウェンズデー」「シスターズ」など引き込まれるドラマがたくさんあったため、2023年も引き続きドラマを見ていきたいと思います。ドラマは連載形式のエンタメなので、Web記事やSNSにより視聴者の盛り上がりが可視化され、さらにムーブメントが加速することがあります(2022年だと「Silent」などでしょうか)。今年はなるべくリアルタイムに近い形で追いかけて、そうした盛り上がりごと一緒に楽しみたいです。(青柳)
- ちょうど先日NHKのトークショー番組「ねほりんぱほりん」がポッドキャストを開始し、1回目のストーリーが公開されました。刺激的なお話も多く展開される同番組が、どのようにして企画されたのか、赤裸々にお話しされていました。聴けば聴くほど、「NHK、なるほど…」となったのですが、メディア各社の強みをどのような形にデザインして届けてくださるのか、とても楽しみです!(大塚)
- くだらないけど、元気や希望がもらえるコンテンツを楽しみにしています。
あと、動画、音声、テキストなどさまざまな形態がガッチャンコして立体的に楽しめるコンテンツに出会いたいです!(守) - 世の中の暗い雰囲気をぶっとばす、気概があるコンテンツ。(平松)
- Generative AIの能力をフルに生かしたテーブルトークRPG(佐々木)