Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

データアナリストが見たONA〜世界の編集者はどれくらいGoogle Analyticsを使っているのか?

こんにちは、スマートニュースの有野です。 普段、私たちのニュースアプリ「SmartNews」を通じて各メディアが配信する記事が、ユーザーにどのように読まれているのかを分析する業務に携わっています。

今回、ONA(Online News Association)の年次カンファレンスに初めて参加することとなりました。

www.mediatechnology.jp

主に、データ分析がテーマのセッションと、新しいニュース体験の期待として、TikTokを題材にしたセッションに参加しましたので、この記事でレポートします。

コンテンツ制作メンバーの4人にひとりしかGoogle Analyticsを使ってない?

ONAでは数多くのセッションが開催されていましたが、唯一メディア運営や、コンテンツ分析を扱ったセッションが、「There’s No “I” in Data: How To Make Analytics a Team Effort(データに "私 "はない。データ分析をいかにチームワークで行うか)」でした。 メディアの分析や、コンテンツ管理のワークフローをテーマにしたWordPress VIPのスポンサードセッションです。WordPress VIPはCMS「WordPress」の構築支援を行うAutomattic社のエンタープライズ部門で、先般、分析ツールである「Parse.ly」を買収、傘下におさめています。

セッションでは、Parse.lyのコンテンツ戦略や運営、分析に関する調査データが報告されました。800人以上のメディア関係者(経営者、コンテンツ制作者)に行った調査結果です。

調査結果では、以下のことが明らかになっていました。

  • 66%が前年より多くのコンテンツを作り、それによるメディアの成長を期待し、コンテンツ予算の維持・増加を狙っている
  • 一方で、その約半数がコンテンツのパフォーマンスを理解していない(コンテンツの数値的な成果を理解していない)

  • その背景として、多くの企業が、Google Analyticsと、ソーシャルメディアに紐づく分析ツールを使用しており、分析ツールの使いにくさ(ツールの理解、複数の分析ツールのログイン、それによるデータの分散)をあげており、GAに至ってはコンテンツチームメンバーの20%しか使用していない。平均コンテンツ制作メンバーは4人なので、ひとりしか利用していない計算となる

この結果には非常に納得しました。 前職で分析ツールを管理する立場であったころに体感していた利用率(ログイン率)とも近かったですし、現職で記事を配信していただいている媒体社の分析担当者と情報交換する際にも「分析ツールを社内で使ってもらえない」という悩みの多かったことを思い出しました。

セッションでは、さらにこんな調査結果も紹介されました。 分析ツールを使わないひとつの理由として、ツールの使い方がわからず、また分析担当者が少数で使い方のサポートできないこと 分析担当者は多くのデータシステムを簡素化し、わかりやすいデータ(例:記事ランキングなど)を共有する結果として、強化しやすいコンテンツが埋もれてしまうこと これもまた非常に痛感、反省する内容でした。「強化しやすいコンテンツが埋もれる」はコンテンツワークフローの話へと続きます。

チームメンバーが行えるコンテンツワークフロー

このセッションでは「コンテンツワークフロー」と称した、チームで行う、または各担当者が個人でできる、さまざな分析方法、記事の評価方法が紹介されました。

書くべき記事をみつける
  • 往々にして、PVが多い記事に注目しがちですが、ひとつの指標だけでみるのではなく、指標と記事のメタデータ(記事のジャンル・カテゴリ、公開日時、文字数)をかけあわせ、対象の記事とのそれぞれの差分から判断する。書く内容で各指標が違うので、それぞれの規模を把握する

  • コンバージョンに効いた、再訪問したなど結果から、各エンゲージメント指標(滞在時間やPV、スクロール率)から逆算して書くべきコンテンツをみつける
ストーリーヘルスチェック
  • 記事公開後の流入元をチェックする。記事公開後、1時間後、3時間後、5時間後、流入元のトラフィックをチェックし、同等の記事のジャンルでは、どの流入元が多かったのかを比較する。ソーシャルの流入が少なければ、再度ツイートするなどフォローする

読者ロイヤルティ
  • 複数のメトリクスで判断する。どのメトリクスが高くても、極端に低いメトリクスがあれば改善がわかる。 なかでも平均的なパフォーマンスの記事こそが、評価すべき記事。特別な流入がなくてもユーザーが継続的に訪れておりロイヤリティが高いはずである。これらの記事をより配信先を検討したり、ニュースレターに配信するなど、注目を集めるよう運用する

つまり、「分析担当者は多くのデータシステムを簡素化してしまい、わかりやすいデータを共有する」ことで、PVが高い記事に評価が集まる傾向にあります。PVというわかりやすい指標は、他記事とも比較しやすく規模も把握しやすい側面があると考えます。 そのPVの作られ方や、エンゲージメントから逆算する視点も大事だと、改めて認識しました。

「クリエイタージャーナリスト」、TikTok上でのジャーナリスト

もうひとつ、興味深かったセッションを紹介します。 世界でも急速に成長しているTikTok。そのTikTokをテーマにしたセッション「FEATURED TikTok, Creator-Journalists, and News on the #FYP(TikTok特集! クリエイタージャーナリストと#FYPを利用したニュース)」です。オープニングキーノートが行われた一番大きな会場で行われたにもかかわらず、座席は7割ほどが埋まっており、参加者の期待値の高さが伺えました。

スピーカーは、Tiktokに力を入れている米インターセプト社のビデオプロデューサー・トラヴィスマンと、ニューヨーク大学のスタジオ20プログラム大学院生であるシンシアテイラー。主にTikTok動画のスクリプトフォーマットや企業で導入する際のガイドライン、クリエイターへの依頼方法やマナーが紹介されました。

スクリプトフォーマットとは、TikTok動画を作る際に用意するとよいスクリプト(台本)と、その理想的な構成です。最初の5秒で注意を引き、中盤では背景や文脈を補足、最後に視聴者にしてほしいアクションへ誘導することが大事だと強調されました。

ガイドラインは、ジャーナリストとしてTikTokを使う際のガイドラインの話です。実際にインターセプト社が導入したガイドラインを共有しました。

The Intercept's TikTok Guide sites.google.com

事前の案内ページでセッションの想定ターゲットとして「Journalists who are unfamiliar and/or skeptical of TikTok(TikTokに不慣れか・懐疑的なジャーナリスト)」と書かれていたものの、予定時間より20分も早く終わったセッションでは参加者がかかえる疑問が解決されない部分もありました。本セッションが終わったあとのQ&Aでは多くの質問がよせられました。

質問を抜粋すると、

  • 数年前はSnapChatをやらないと生き残れないと必死だったが今はまったくやっていない。TikTokにも同じように感じるがどうしたらいいか
  • フェイクニュースへの対抗する手段がなにもない、多くのフェイクニュースが集まっているのをどうしたらいいか
  • 自分たちが数年前に作った動画が盗用されてバズっているのをどうしたらいいか

など。媒体がTikTokへ懐疑的に感じていること、現状に課題を持っていることが伝わる質問でした。

今回参加したONAでは、個人的にメディアのグロースの示唆を得られるセッションを選んで聴講しました。

セッションでの内容そのものや、参加者からの質問や会場のリアクションから、総じて国や文化の違いがあっても、往々にメディア運営の課題は共通しているように感じました。

例えば、本記事で紹介した「There’s No “I” in Data: How To Make Analytics a Team Effort」では、コンテンツへの投資=記事を増やすことはある意味PVを主としたメディアの成長を意味し、その状態のことを「コンテンツ・ハムスターホイール(ハムスターが歯車を回し続ける)」と揶揄していました。

また「FEATURED TikTok, Creator-Journalists, and News on the #FYP」では、会場の質問から、新しい若者が接するメディアへの期待値が高い反面、過去の経験から懐疑的にならざるを得ないことを痛感しました。

まさしく日本のメディアを運営するみなさんも感じていることではないでしょうか。

新しいメディア・コンテンツへの投資は必要な一方で、いままでの運用の振り返りも重要であること、PV偏重でのコンテンツ評価についても改めて考える、学びが多いONA参加でした。

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著者紹介

有野 寛一(ありの・ひろかず)

有野 寛一

スマートニュース株式会社 Data Analyst of Media & Content

前職ではSmartNewsAwardsを受賞した週刊アスキーのWebプロデューサー。その知見を活かした媒体社様とのコミュニケーションを担当する。大手ポータル、SNSでの経験から情報発信と受信に課題を持ち現職へ。インターネットで流通するニュースが好き。

この記事も書きました。

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