Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

『天気の子』『あなたの番です』——映画とドラマ、どう違う? 徹底比較、人気作品にまつわる記事の読まれ方

本記事では、2019年に話題となった映画『天気の子』(東宝)と、ドラマ『あなたの番です』(日本テレビ)についての記事がSmartNewsでどのように読まれたかを比較します。映画とドラマ、それぞれの特性によって、読者の行動はどう変わるのでしょうか。2020年に大型エンタメ作品が登場したとき、記事執筆や企画のヒントになればと調べてみました。

本記事は、良質なコンテンツとその担い手に贈るアワード『SmartNews Awards 2019』を記念して執筆されました。

調査方法

『天気の子』は興行収入が133億円を超えた大ヒット映画、『あなたの番です』は最終回視聴率が19.4%に達した人気ドラマです。調査にあたり、2019年7月1日から8月31日までに「天気の子」「新海誠」を、2019年6月30日から9月10日までに「あなたの番です」「あな番」をタイトルに含む記事を、それぞれ『天気の子』『あなたの番です』の関連記事とみなしました(『あなたの番です』は放映期間が2クールあり、後半の2クール目のみを対象にしました)。

『天気の子』(2019年7月19日公開映画 原作・脚本・監督:新海誠)

  • 期間:2019年7月1日〜8月31日
  • 対象:SmartNewsで閲覧された記事でタイトルに「天気の子」または「新海誠」を含む記事

『あなたの番です』(日本テレビ系2019年4月・7月期日曜ドラマ)

  • 期間:2019年6月30日〜9月10日
  • 対象:SmartNewsで閲覧された記事でタイトルに「あなたの番です」または「あな番」を含む記事

映画よりもドラマのほうが競争率が低い?

表1:『天気の子』『あなたの番です』関連記事のSmartNewsにおける閲覧状況

記事数 媒体数 ページビュー数 1ページビューあたりの平均滞在時間
天気の子 1,104 記事 226 媒体 約 430 万 ページビュー 33 秒
あなたの番です(2クール目) 1,010 記事 106 媒体 約 1,600 万 ページビュー 60 秒

『天気の子』『あなたの番です』を比較すると、対象期間の約2ヶ月の間に公開された記事数は約1,000記事と同程度ですが、『あなたの番です』に関して記事を書いた媒体数は『天気の子』の2分の1、ページビューに関しては『あなたの番です』関連が『天気の子』に比べて 3.5倍以上、という結果となりました。つまり『あなたの番です』の記事は、『天気の子』関連記事に対して一媒体あたりの平均ページビュー数が7倍程度高いということになります。

これは、作品の鑑賞時間による参入障壁の違いではないかと推察します。映画は約2時間で鑑賞を終えることができますが、ドラマは毎週、1時間ほどの物語をおよそ2ヶ月間に渡って追い続けなければいけません。とくに今回対象とした『あなたの番です』は、2クール連続放映かつ殺人ミステリーであったことから、1クール目から物語をウォッチし続けていないと展開が分からないというハードルがありました。

映画は「ネタバレなく」作品への期待を高める記事が人気に

数字的にこのような違いを見せる二作品ですが、ユーザーの動向から「求められる記事の切り口」を探っていったときにはどんな相違点、あるいは共通点が見えるでしょうか? ここからはより分析テーマを細分化し、それぞれのコンテンツに関心を持つユーザーが、どんな閲覧傾向を持っていたかを掘り下げていきます。

『天気の子』の記事について、横軸に日付、縦軸に記事の滞在時間をとっています
『天気の子』の記事について、横軸に日付、縦軸に記事の滞在時間をとっています

上の図は、『天気の子』に関連する記事の滞在時間の日別推移です。映画の公開日7月19日をピークに、公開後1週間後まで特に活発に読まれ、2週間もすると大分落ち着いてくるのが分かります。

映画専門媒体による鑑賞後の考察・批評記事が多く読まれることについては、みなさん予想に難くないかと思います。それでは他に、どんな切り口の記事が人気だったのでしょうか? 今回特徴的だったのは、公開直後から数日間にかけて、「ネタバレなく楽しめる」「作品への期待を高める」ような記事が注目を集めていたことです。なお、読者の属性は下記のような割合でした。

男性が76%、10〜20代の若年層が33%を占める
男性が76%、10〜20代の若年層が33%を占める


公開当日にもっとも読まれた『新海誠監督「2年間の自分たちのすべてを一言で否定されるって結構痛い」少しでも痛みのない映画作りを目指し客観性を重視』(ガジェット通信)は、公開当日の朝に情報番組に出演した新海誠監督のコメントを取り上げた記事でした。他には、『天気の子』がさまざまな企業や商品とコラボをしていることを受けて、映画中に出てくる食べ物や場所について面白おかしく取り上げた記事が多く読まれていました。

また、公開翌日にもっとも読まれたのは、『天気の子』の即日レビュー記事ではなく、新海監督前作品『君の名は。』のコミカライズ作品を掲載した『『君の名は。』①(後編)/新海誠『天気の子』の前作を振り返る!』(ダ・ヴィンチニュース)でした。映画公開日前後の連載は期間中、コンスタントにページビューを集めていました。同監督の前作を思い起こしている読者の需要をとらえ、新作上映への期待を促進させるような記事でした。

横軸に日付、縦軸にPVを発生させた読者の平均年齢
横軸に日付、縦軸にPVを発生させた読者の平均年齢

時間の経過とともに読者の年齢層が移り変わるのは、消費増税の記事閲読傾向にも似たものがあります。映画公開直後は平均年齢が下がり、日が経過するにつれて上がっていきます。公開直後は映画のメインターゲットである若年層が上記に挙げたような面白いライトな読み口の記事をよく読み、公開からしばらくした後は、考察や批評などのよりヘビーな読み口の記事をより上の年齢層の読者が楽しんだ——のかもしれませんね。

公開直後のピークでは、映画本編のストーリーを明かさずに、映画作品への期待を高めるような記事や、映画作品の持つ独自性(前作を受けての注目度や、メディアミックス、企業間コラボなど)をうまく取り上げた記事が読者の関心を捉えていたようです。しかし、次にご紹介する『あなたの番です』では、これとはまったく対照的な記事が多く読まれていました。

ドラマは「毎週の慣習」をよくとらえたコンテンツが人気に


『あなたの番です』の記事について、横軸に日付、縦軸に記事の滞在時間をとっています。
『あなたの番です』の記事について、横軸に日付、縦軸に記事の滞在時間をとっています

上の図は、『あなたの番です』の2クール目に関連する記事の滞在時間の日別推移です。7日ごとに山がありますが、これは毎週日曜夜10時にドラマが放映された翌日に関心が高まるためです。2クール中盤の第15話を境に徐々に伸び、最終回翌日においてはそれまでの2倍、3倍ものスパイクがあります。いかにフィナーレが話題を集める展開であったかが見てとれるようです。『天気の子』とは異なり、期間を通して、ネタバレを大いに含んだ考察記事がよく読まれていました。なお、読者の属性は下記のような割合でした。


女性が60%、30〜40代のミドル層が60%を占める。
女性が60%、30〜40代のミドル層が60%を占める。
本作では、殺人事件の犯人を考察するブーム(作中の言葉で言えば「オランウータンタイム」)がソーシャルメディア上で多く繰り広げられていました。この盛り上がりを受けた『「あなたの番です」視聴者の黒幕&結末予想発表 現時点で有力だと思う“説”は?根拠は?【~17話】』 (モデルプレス)は、媒体独自の読者アンケートとともに犯人を考察しているもので、一連の記事は毎週多く読まれていました。毎週の放送にあわせた読者の慣習を巧みにとらえた企画かと思います。

『あなたの番です』の1ページビューあたりの平均滞在時間は『天気の子』の約2倍の60秒(参考:表1)と、くわしい考察をじっくりと読みたいという需要が伺い知れます。1ページビューあたりの滞在時間がもっとも長かった『19話直後考察「あなたの番です」黒幕は二階堂でも黒島でもない説 「ゾウさんですか、キリンさんですか」本当の愛が試される最終回を大胆推理』(ねとらぼ)は、最終前話までの展開を受け、登場人物のオリジナルイラストを交えての独自考察をした内容で、本文が長いにも関わらず非常によく読まれていました。

また、『あなたの番です』の1クール目と2クール目を比較した際にも、おもしろい発見がありました。1点目は、いずれのクールも物語の中盤(1クール目では4話目、2クール目では15話目)に一度、滞在時間のスパイクがあります。ドラマのプロット構成上、物語の中程に一つのヤマが来るようになっているということが言えるのかもしれません。これを受けると、ドラマに関する記事を書くとき、このタイミングで、それまでをサマリーした記事を配信するのも効果的かもしれません。

2点目は、2クール目のほうが記事数は約3倍、記事の総滞在時間数は5倍程と、2クール目にかなり関心の高まりがあったことです。なお、モデルプレスによると2クール連続ドラマは日本テレビ史上では1994年以来の取り組みであったらしく、また同作は、サイドストーリーをhuluのみで配信する取り組みも行っています。ヒットするドラマを予想することは難しいかもしれませんが、このような新しい施策を行っているドラマの動向は、ウォッチしがいがあるかもしれません。


映画とドラマ、それぞれの形式の違いによって、読者の需要のピークやよく読まれる記事の特徴には異なる部分がありました。しかしながら、作品それ自体の特性から生まれた読者のムーブメントに応えた記事がよく読まれる、といったところは、共通する要素でした。これからも、SmartNews上の閲読傾向から得られた洞察を媒体社の皆さまへお返ししていければと思います。


著者紹介

田尻愛(たじり・あい)

田尻愛

2015年4月にスマートニュース株式会社に入社。メディア事業開発所属。メディアパートナーとのアライアンスを担当。一児の母。


本記事の分析は、SmartNewsアプリでの掲出アルゴリズムとは一切関係ありません。