Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

被災地で求められる情報とは? ——能登半島地震から1ヶ月、東京との読まれ方の違いを分析

こんにちは、スマートニュースの有野です。 普段、私たちのニュースアプリ「SmartNews」を通じて各メディアが配信する記事が、ユーザーにどのように読まれているのかを分析する業務に携わっています。

元日の2024年1月1日に発生した能登半島地震からおよそ1ヶ月が経ちました。いまだライフラインが復旧していない地域や手を付けられていない倒壊した建物など、復旧までにかなりの時間を要するとされています。

今回の地震で被害の大きい被災地の一つでもある石川県珠洲市は、筆者の実家があるところです。現在も母親や親類が住んでいます。家族は無事が確認できたものの、家屋は完全に倒壊し、二次避難先での生活を強いられています。

今回は、こうした背景や被災地に関する自身の知見もふまえ、石川県では、今回の地震でどのような記事がSmartNewsを通じて読まれたのか、その分析から、災害時、その後の避難生活において当事者にとって本当に必要な情報とはなにかを本稿を通じて考えたいと思います。

 

 

調査方法

  • 期間:2024年1月1日 〜 2024年1月31日
  • 対象:全国紙、キー局、被災地または近隣する地域をエリアとする地方紙・地方局(新潟、富山、石川、福井)が期間中にSmartNewsに配信した地震に関連するキーワード(後述)が含まれる記事、約10,000本

地震発生当日の時間帯アクセス

2024年1月1日 16時6分、石川県能登地方で最大震度5強の地震が発生、その4分後の16時10分に最大震度7を観測した大地震が発生しました。

発生当日、ニュースアプリであるSmartNewsはどのように利用されたのか。アプリの起動数と記事閲覧数を、被災地の石川県と、東京都で比較しました。

地震発生直後からユーザーのアプリ起動数が頻繁に

当日の時間帯と、時間ごとのアプリ起動数を集計したもので、1日の起動数を100%とし、時間ごとの割合にてグラフ化したものです。

時間帯ごとのアプリ起動数

SmartNewsは地震発生直後、号外ニュースとしてユーザーにプッシュ通知を送信しています。そのため、多くのユーザーはその通知で地震を知り、SmartNewsを起動しました。 上記グラフでユーザーのアクセスが、地震が発生した16時台に集中していることがわかりますが、石川県と東京都で明確に違いがあります。

  • 石川県
    • 16時台のアプリ起動は8%だが、その後23時まで起動回数は多く続く
  • 東京都
    • 16時台に多くのユーザーが起動するが、その後起動数は減っていく

1月1日は元日でもあり、平日や通常の休日と比べると、ニュースへの接触状況が異なることを考慮する必要がありますが、石川県では地震に関するニュースを知る手がかりとして、16時以降にも頻繁にユーザーが起動していることがわかります。

ニュースの閲覧数から読み解く被災者の当日の行動

同様にニュースの閲覧数(PV)についても、時間帯別で集計しました。以下のグラフです。(注:地震関連に限らず、その他のニュース記事も含んだPV)

時間帯ごとの記事閲覧数(PV)

  • 石川県
    • 16時から18時までが少なく、その後PVが多くなる
  • 東京都
    • 16時のPVが多く、その後ゆるやかに減少する

このデータから、石川県では地震発生直後、避難や身の安全を守る行動を優先し、落ち着くまで情報の入手ができていなかったことがうかがえます。そして、19時以降、関連する多くの情報を得るためにニュースの閲覧が増えたと考えられます。

 

 

能登半島地震に関する情報発信の推移

地震に関する報道は、1月末段階では当初よりも落ち着いた印象をうけます。

発生日から1月31日までの期間中、分析の対象とした媒体からの(前述の調査方法を参照)配信記事本数の推移をグラフ化しました。(期間中の記事本数を100%とし、日毎の割合で集計)

日ごとの記事本数

1月1日当日の地震発生が16時だったこと、翌日が大半の新聞では休刊日だったこともあってか、記事本数が多かったのは、当日ではなく、翌日の1月2日でした。その後、配信記事の数としては、緩やかに減っていることがわかります。

関連記事の本数とPVをキーワードごとに分類

地震に関連する記事を以下の条件に該当するキーワードで分類しました。

  • 被災状況
    • 地震でうけた被害を表すキーワードが含まれる記事
      • 例:震度、津波、崩壊、死者、妻、孫などの家族を示すもの
  • ライフライン
    • ライフライン全般ほか、学校や受験、日々の気象情報も
      • 例:水、電気、鉄道、コンビニ、入浴、受験
  • 支援活動
    • 被災地を支援する活動全般、国や行政での支援も含む
      • 例:寄付、義援金、炊き出し、ボランディア、観光支援

時系列でみると、当日からしばらくは被災状況の記事が多く、その後徐々に減る一方で、ライフラインや支援活動の関連記事は一定の本数を保っているように見えます。

カテゴリ別、日ごとの記事本数

1月末での全体の割合では、被災状況が書かれた記事が半数を占め、ライフライン、支援活動が続きます。

PVでみても、記事本数と同様の比率で被災状況の記事が高い割合を占めている結果がでました。

 

 

被災地とそれ以外の地域で読まれる記事傾向の違いとは?

石川県と東京都でのカテゴリごとのPVを比較すると、被災地では、やはりライフラインに関する情報を求める傾向が顕著でした。

ライフラインに関連した閲覧記事の詳細を比較すると

ライフラインに属し、さらにキーワードを細かく設定して分類しました。すると、割合としては1%前後ではあるものの、閲覧されている特定のキーワードの順に特徴があらわれています。

ライフラインに属する分類

石川県では「水」や「道路」が上位にきています。 石川県では、長期に続く断水、いまだに復旧の目処が立たない地域もあり、「水」に関連する記事が注目を集めています。

「道路」では、陥没や通行止めなど、能登半島にまたがる大きな国道やトンネルの寸断があったため、復旧の状況を確認する傾向がみられました。発生当日が、元日だったこともあり、帰省していた方や観光客も多く被災し、移動手段を知る上でも重要な情報でした。

また、石川県に入っている「入浴」では、自衛隊による入浴施設の設置など避難所の支援や温泉施設の無料開放などがありました。

東京都のユーザーの閲読傾向では、ライフラインに関する記事として、「自販機」や「銭湯」といったキーワードが上位に入りました。

「自販機」では災害時、飲料確保のための自動販売機の破壊に伴う取材記事。 「銭湯」では、地域の公衆浴場が断水環境のなか、地下水を汲み上げて営業を再開した記事が読まれました。

このほか、新学期や受験シーズンということで、保護者の元を離れ、子どもだけが避難する「集団避難」や、避難所でも続く断水や停電、安全確保のための「2次避難」に関する記事も入っています。

「被災状況」、「支援活動」に分類された記事はどう読まれたか

被災状況では、数千年に一度の規模と呼ばれるほど大地震であったため、その被害の実態を伝える記事(「家屋倒壊」「家族」「死者」など)が耳目を集めました。

被災状況に属する分類

支援活動では、様々なキーワードに分散しています。

「支援」では企業や団体からの支援、食べて応援などを分類しています。

ほか、石川県では「炊き出し」が、東京都では「寄付・義援金」が続いて、それぞれの環境で必要なことが、わずかな差ではありますが閲覧傾向にあらわれています。

支援活動に属する分類

 

 

本分析をおえて

地震から1ヶ月ほど経ち、被災地と全国で必要な情報とはなにかを深く考えることが増えました。

例えば、本稿でも紹介した「公衆浴場の再開」にあたるニュースは、さまざまなメディアで取り上げられ、どの記事も多く読まれました。

営業再開という明るいニュースは被災地で生活する人たちに活力を与える記事です。一方で、「いつから入ることができるのか」「制限はあるのか」と入浴するための情報が届いていない印象があります。こうした詳細かつ正確な情報発信は(施設からの公式情報など)、通常の記事だけでは把握することが難しく、被災者がその情報を調べるために検索した様子が NHK NEWS の記事により想像できます。(この記事にある断水関連の検索キーワードをみると、1月18日に該当の銭湯である「あみだ湯」が入っています)

また、ライフラインの復旧などの記事は必要な情報ではあるものの、PVとしては、どうしても他のカテゴリーと比較すると小さくなってしまいます。インターネットでの記事作りにおいては、PVの大きさに目がいきがちですが、こういったリアルタイム性、更新性の高い情報は記事として公開するだけではなく、SNSでの発信も選択肢としてあり得ると考えます。

例としてMRO北陸放送のXへの一連のポストがあります。

支援物資の配布の日時や公式への誘導リンクなど被災者にとっての重要な情報をXにてポストしています。放送や記事化だけが報道ではなく、さまざまな手段でメディアが情報を届ける意義も今回の分析を通じて感じました。

こうした大災害における情報のニーズに対して、どのように情報を発信するか、また必要な情報をどうやって届けるのか。われわれスマートニュースとしても、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションを念頭に、今一度考え、今後の具体的な行動にも生かしていきたいと思います。

 

 

著者紹介

有野 寛一(ありの・ひろかず)

有野 寛一

スマートニュース株式会社 Data Analyst of Media & Content

前職ではSmartNewsAwardsを受賞した週刊アスキーのWebプロデューサー。その知見を活かした媒体社様とのコミュニケーションを担当する。大手ポータル、SNSでの経験から情報発信と受信に課題を持ち現職へ。インターネットで流通するニュースが好き。

この記事も書きました。

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