印刷されたコンテンツとデジタルコンテンツ。記事が読まれるときの大きな違いの一つが「タイトルとサムネイル」の重要性です。デジタルでは、ウェブメディアにしてもニュースアプリにしても、最初に読者の目に入るのは、タイトルとサムネイルだけ。それゆえに、記事に興味を持ってもらうためのタイトルの決め方には、多くの編集者・ライターが工夫を重ねていることでしょう。
しかし、本文を参考に記事を選ぶことができないというスマートフォンでの閲読体験のもとでは、タイトルの決め方は、記事の「選ばれ方」だけでなく、記事の「読まれ方」にまで影響を及ぼします。
今回は、毎日1万本以上にのぼる、SmartNewsで表示された記事の閲読データを分析しました。そこで見えてきた、本文まで読まれやすい記事タイトルの特徴をお伝えします。
タイトルと導入部の印象が異なるだけで読者は離脱する
SmartNewsでは、記事の一覧を表示する画面「ChannelView」と記事閲読に最適化されたシンプルな画面「SmartView」とを用意しています。
読者が記事をタップし、SmartViewが開かれると、1ページビューが発生します。
私たちはSmartViewの滞在時間が5秒以下、つまり記事を開いてすぐにChannelViewに戻ってしまったページビューを「直帰」と定義し、通常のページビューとはカウントせず、このユーザー行動について、分析を進めてきました。
5秒という短い時間で読者は記事全体の内容や質を判断することはできません。 最初の5秒で読者が重要視しているのは導入部分の文章です。
直帰が多く発生した記事を分析すると、タイトルとサムネイルから受ける印象と、文章の冒頭から受ける印象が異なるケースが多々ありました。
たとえば、「中国でのメディアアプリ最新事情」というタイトルの記事の冒頭が、取材で立ち寄ったグルメの話から始まっていては、中国のメディアテクノロジーに興味のある読者は、いつ核心をついた内容が始まるのか、不安を抱えながら読み進めることになります。我慢強くない読者にいたっては、すぐに記事を読むのをやめてしまいます。
印象とは、記事の内容だけではなく、難易度とも関係しています。
紙面であれば、後半が目に入ることもあるので、初心者向けの内容や関係の薄い話題から文章を進めても良いでしょう。一方で、スマートフォンでは記事の先読みができないため、冒頭からメイン読者のリテラシーにあわせた難易度に設定しなくてはなりません。
たとえば、専門的な内容の記事であるのに直帰率が高い記事があります。このようなケースによく見られるのが、幅広い読者に読んでもらうために、あえて初心者向けの平易な内容から始めるパターンです。
しかし、取り扱うトピックに対して、リテラシーの高い読者をターゲットにしているのであれば、冒頭をあえて平易に書いているのは逆効果になりかねません。タイトルを読んで記事をタップした段階で、既にターゲット読者は大幅に絞られているためです。
タイトル・導入・後半と読み進めるにつれ、読者は次々と離脱していきます。そのファネルを意識して内容と難易度を設定し、冒頭で読者の想定を裏切らないことが大切です。
いつ読むのをやめても大丈夫な記事が「読者フレンドリー」
一般的に、読者はどこかのタイミングで記事の閲読を終了しますし、仮に記事を最後まで閲読しなくとも好意的に捉えている可能性があります。しかし、読者が記事を読み進めるうちに閲読体験に不満を抱く場合もあります。こうした離脱に多いのは、内容が読者の興味のある範囲から外れたときです。
とくに、記事の概要を「面」で捉えることができる紙媒体と異なり、スマートフォンでの記事閲読は、いま読んでいる文章が後続する段落と内容的にどう関連しているのかを判断するのが難しいため、読者の関心からそれた段落があると、離脱が起きやすくなります。
記事を執筆する際には、気になる箇所を好きな順番で読むことができないというスマートフォンの制約と、それが読者に与える不安を意識することが大切です。
読者が最終段落に到達するためには長い距離の画面のスクロールが必要です。 このため、「最後まで記事を閲読しないと筆者の主張は理解できないのではないか」という不安感を与える文章は、記事閲読に掛ける労力は確定しているが、記事閲読から獲得できる知識は不確定という印象を与え、結果的に読者に「リスクの高い記事」という判断をされてしまう可能性があります。
分析結果からは、筆者の主張が記事の後半で不連続に変化したり、記事本文の途中で急に本論と関係のない話題を取り扱う記事は、記事閲読の中断が発生しやすいことが分かっています。
逆に、タイトルの文言や導入文章から読者が受け取った印象を、後続の文章で補足説明していく文章は比較的長く読んでもらえる傾向にあります。
「最後まで記事を読んでもらえないかもしれない」ことを念頭におきましょう。そして、伝えたい内容はなるべく最初に書き、タイトルで提示したトピックを様々な観点から深掘りした構成にすることで、長く読まれやすい記事になるはずです。
ページビューはクリック率だけでは決まらない
これまで、タイトルと本文の内容的・難易度的な連続性が重要であることを話しました。これらの注意点は、記事をタップした後でより良く読まれる体験を作り出すものであるだけでなく、ページビューを高めるためにも必要なポイントです。なぜなら、SmartNewsのようなニュースアプリのアルゴリズムは、読者が最後まで記事を読んでいるかといった指標も見てスコアを決めているからです。
実際にSmartNewsにおける直帰率(Bounce Rate)とクリック率(Click Through Rate)の関係を調べるため、ある日の記事閲読データをもとに散布図を作りました。
グラフ中の各点は一つ一つの記事を表しており、円の大きさはページビューの大きさを表しています。横軸は直帰率で、右に行くほど記事を読むのを5秒以内にやめてしまった人が多い記事となります。そして縦軸はクリック率で、上に行くほどChannelViewからタップされて記事を読まれる確率が高い記事です。
このグラフの右上の部分は点がまばらです。これは、クリック率は高いが直帰率も高い記事、いわゆる釣り記事がほとんどページビューを取れていないことを示しています。
また、円が大きい=ページビューが大きい記事は、直帰率の低い左側に集中しています。ここからも、記事をタップした後の行動が、ページビューに繋がっている様子がわかります。
まとめると、タイトルとサムネイルが魅力的でも、冒頭の文章が読者の期待に答えられなかったものは直帰率が高くなり、結果としてアルゴリズムから低い評価を与えられてしまうと言えるでしょう。
読者の期待をタイトル・導入・後半までコントロールし、読者に価値を提供し続けることが、ページビューの増加にも繋がり、媒体ブランドが持続的に成長していくことにも繋がります。
SmartNewsでは、媒体社が労力をかけて作成した良質な記事を、1人でも多くの読者に届けるために、不本意な記事閲読の中断が起きないように日々プロダクトとアルゴリズムの改善を進めています。
※ この記事はSmartNews Engineering Blog「スマホの画面で記事をよりよく読んでもらうために」を再編集したものです。
https://developer.smartnews.com/blog/2018/09/deep-insights/
著者紹介
田島将太(たじま・しょうた)
メディア事業開発 プロダクトマネージャー
2016年東京大学教養学部卒業。2016年9月スマートニュース株式会社に入社。メディアパートナーとのアライアンス、データ分析、およびPublication Networkプロジェクトのプロダクトマネージャーを務める。
本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。