Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

長いテキストを読まない!? インドネシアのメディア事情、人気は「ファッション、コスメ、お金持ち」

 

f:id:sotakaki_sn:20191119182020p:plain

はじめまして、SmartNews メディア事業開発所属の山口 亮と申します。コンテンツをユーザーに届けるために、記事や動画を分析したり、コンテンツ掲出システム / ロジックの改善案を考えたりしています。

スマートニュースは米国にオフィスがあり、外国籍社員も多く在籍するなど“世界”を意識することが多々あります。最近この国ではこんなアプリが流行っているらしい、この地域はこんなコンテンツを好む傾向にある、母国ではこんな取り組みがーーなんて会話もちらほら。

その中でも「会話に出てこない」のがインドネシア。約2.5億人超の人口、著しい経済成長を見せるなど世界的には目立つ存在ではありながらも、どのような国なのかほとんど知りません。

アメリカをはじめとする欧米諸国、インドや中国といったアジア圏の大国については情報がそれなりに出回っていて知る機会もある。でも、インドネシアってどんな国なんだろう? どんな人たちが、どんなメディアで、どう情報収集しているんだろう?

もしかしたら、メディアのこれからを考えるにあたってヒントがあるかも? というわけで実際に行ってみました。

長いテキストを読まない国民性

訪れたのは首都ジャカルタ、都市圏人口が3,200万人と世界トップクラスのメガシティ。人が多すぎて交通渋滞が頻発するなど、人口集中が問題視されている都市です(それもあって先日、首都の移転が発表されました)。

 インドネシアに足を運んで最初の驚きが、書店の数です。少ないというより、皆無。ショッピングモールを歩いてみても見かけるのは絵本のみ。それも、通路の脇に少しだけ置いてあるという程度です。

インドネシアでライターをしている女性は、「インドネシアの人は、そもそも文章を読まない」と話します。「InstagramやYouTubeで『見る』のが中心です。本も新聞もそんなに読まないし、例えば新店舗オープンの情報発信をしようとしたら、アプローチするのはInstagrammerやYouTuber。記事じゃないんです」

 

f:id:sotakaki_sn:20191119200002p:plain

スマホの画面を見せてもらっても、左の写真の画面右列にある「News」フォルダに入っているアプリは2つだけ。しかもそのうちひとつはNHKワールドでした。

ちなみに、InstagramやYouTubeで何がウケるのか聞いてみたところ、人気なのは「ファッション・コスメ系などライフ分野、あとお金持ち」とのこと。「お金持ち」と聞いて思わず吹き出してしまいましたが、その背景には経済成長を続けるインドネシアなりの事情があるそうです。 

都市部の所得も右肩上がりの状況下で、“これからも成長が続くはず、昨日よりもいい生活がおくれるはず”といったぼんやりした期待感が、若者の間で広がっている。成功している人たちをInstagramやYouTubeで見て、憧れを抱く。いつかは自分もこういった生活をーーー。

 そんな心情が、「お金持ち」なコンテンツ消費に駆り立てているといいます。

フェイクニュースとマネタイズ、苦しむメディア

一方、そういったSNSや動画配信サービスの普及が生み出した課題も。ジャカルタで出会ったあるジャーナリストは、大統領選の時期に流通したフェイクニュースについて言及します。

「YouTubeのフェイクニュース動画が広く流通し、数百万回も再生される例もある。スマホが普及して気軽に投稿できる環境が整った結果、自撮りでフェイクやそれに近い情報を発信する人も出てきた。これは大きな問題だ」

文章ではなく、SNSやYouTubeでの情報摂取、動画閲覧を好む国民性。インターネットの普及により個人発信が当たり前となり、多様なコンテンツに出会える環境が生まれた反面、伝統的なメディア側からすると悩ましい状況でもあるようです。

また、もう一つ悩ましいのがマネタイズ。若年層を中心にスマホが当たり前の存在になりつつありますが、ユーザー層の中心が若年層であるからこそ、広告市場としてはまだまだテレビに投下されているといいます。

「マネタイズは本当に課題だ。若いユーザーはまだ裕福とは言えず、広告価値としてはこれからが期待される。オンラインの広告市場は全体としては伸びているが、依然として厳しい」

高まる存在感、多角化する配車アプリ

また、インドネシアで大きな存在感を放っているのが配車アプリ。生活に欠かせない存在として、GO-JEKとGrabという2つのアプリが激しく競い合っています。App Annieのデータを用いたHootsuiteの調べによると、MAUランキングでそれぞれ8位と10位。ニーズの高さがうかがえます。

いわゆるUberやLyftのようなアプリではあるのですが、違いはカバーしているサービスの広さ。配車だけに限らずデリバリーはもちろん、ゲームやニュース、 動画までを網羅。さまざまなサービスを統合した「スーパーアプリ」として人気を博しています。

f:id:sotakaki_sn:20191119200448p:plain

 
媒体としてはインドネシア国内最大級のDetik.comをはじめ、多くの媒体がコンテンツを提供。渋滞するお国柄もあり、それこそ移動中に読むという習慣が根付きやすいとも聞きます。 

この旅で一貫して感じたのが、ニュースアプリやサイトの印象の薄さでした。テレビは見ているけど、ニュースアプリ? InstagramやYouTubeは見ているよ、という雰囲気。「ニュースを集めて届ける」という価値が持つ、インパクトの低さを認識せざるを得ませんでした。

翻って思うのは、Grabをはじめとする配車アプリや、InstagramやYouTubeなどに対するニーズです。特に配車を軸としてさまざまなサービスを統合する「スーパーアプリ」には、可能性を強く感じました。

ニュースアプリやサイトではなく、スーパーアプリのイチ機能としてニュースを届ける。文章を読まないインドネシアならではのコンテンツの届け方のように思います。

初めての土地で、さまざまな人に話を聞く。日本とは異なるニーズや習慣、一部共通する課題を通じて、ニュースを届けることの奥深さを再認識する機会となりました。

 

著者紹介

f:id:sotakaki_sn:20191120103331j:plain


山口亮(やまぐち・りょう)

スマートニュース株式会社 メディア事業開発、コンテンツの分析などを担当。新卒でYahoo!JAPANに入社後、検索やニュースで分析、編成を担当し、BuzzFeed Japanの立ち上げに従事。同社に出向し、主にSNSやニュースアプリへのコンテンツ配信と成長戦略を担う。帰任後、スマートニュースに移籍。趣味はボードゲーム、太ってきたのが悩み。

 

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。