芸能・エンタメに強いニュースメディアとして、圧倒的なブランド力と認知度を誇るのが、オリコングループの「ORICON NEWS」(https://www.oricon.co.jp/)だ。前身のORICON STYLEからリニューアルし、現在はWebサイト運営とネットワーク広告枠運用およびタイアップ記事の企画・制作をoricon ME社が担い、そしてニュース取材とコンテンツ配信をオリコンNewS社が担当するという2体制で運営されている。
そんなオリコンNewS社が、2013年2月に開設した公式YouTubeチャンネル『ORICON NEWS』の登録者数が、2020年8月21日に100万人を突破した。芸能・エンタメニュースに特化したYouTubeチャンネルが、7年以上かけて登録者数100万人を突破するまでの歩みと、そのメディア戦略について、オリコンNewS株式会社取締役ニュース編集部長・上野拓人氏、同社取締役事業開発部長・永井祐輝氏に聞いた。
ニュース制作・配信と運営を分担しているオリコングループ
新型コロナウイルスの感染拡大により、仕事や学業など生活のしかたが大きく変わったが、そのなかでも注目されたのは、生活者のメディア消費の変化だろう。たとえばスカパーJSATが運営するスカパー!が行ったメディア・エンタメ視聴に関する調査によると、緊急事態宣言前後で、「1人でテレビを見る時間」は1日あたり平均38分増加したという。
また7月に発表された博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所のリリースによると、「こうした接触時間の増加は一時的なもの」という見方がある一方で、「生活者のメディアや情報に対する態度として、『向き合う』『確かめる』『なごむ』」という傾向が強まったとしている。
オリコングループのニュースの外部配信事業を担うオリコンNewS社でも、変化を肌身で感じている。運営するYouTubeチャンネル『ORICON NEWS』では、実際に緊急事態宣言下で視聴時間が伸びたという。
「視聴時間は、どこも伸びているだろうとは思います。ただ、コロナ禍で新規の取材がほぼなくなってしまったなか、ORICON NEWSのYouTubeチャンネルは7年の歴史があるので、アーカイブ動画がレコメンドされることで新規視聴分をカバーできたのだろうと考えています」と永井氏は説明する。
8月には登録者数が100万人を突破し、YouTubeから盾が送られてきたばかりの『ORICON NEWS』。同名のWebメディアもあるが、そのニュース制作・配信と運営は、実は別々の会社が担当している。
まず、オリコンNewS株式会社はオリコングループの中ではニュース通信社のような立ち位置。エンタメニュースを制作・配信しており、YouTubeのことも一種の外部配信先と捉えて、動画コンテンツを公開している。ちなみに、Yahoo! JAPANなどのポータルサイトや各新聞社、そしてSmartNewsなどのニュースアプリへのニュース配信も、オリコンNewS社が担っている。
一方、Webメディア「ORICON NEWS」を運営しているのは、株式会社oricon ME。主な収益源はメディア上での広告収入だ。オリコンNewS社の制作した記事もメディア「ORICON NEWS」でも公開されるが、あくまでORICON NEWSに配信をしている立場になる。Webメディアの多くは、記事の取材・制作とともに、メディア運営を担っているが、オリコンNewS社は独特の体制を取っているのだ。
その中で現在、動画制作チームは4名ほど。基本的には全員がディレクターとして、取材に当たっているという。上野氏は主に記者チームの制作デスクの立場として、取材先への記者の配置やコンテンツ制作全般を見ており、永井氏が動画チームの総合プロデューサーという役割だ。
以下、コンテンツの制作・配信を手がけるオリコンNewS社に、YouTubeを使った動画ニュースの戦略や、ORICON NEWSのメディア戦略について聞いていく。
立ち上げ時から動画・テキスト両方のフォーマットで運営を開始
もともと、2000年代前半から「ORICON STYLE」という音楽情報サイトを運営しており、各種ランキング情報や最新音楽情報を提供していたオリコングループ。そのニュースコンテンツの外部配信事業が本格的にスタートしたのは2006年のこと。Yahoo! JAPANやmixi newsなどのポータルサイトに記事配信を行っていたが、運営を続けるうちに、記事配信先が拡大。2013年に配信事業を行うオリコンNewS社が立ち上がって、外部配信に注力するようになった。2020年現在、ORICON NEWSのコンテンツは、各種Webメディアやニュースアプリを含め100媒体以上に配信されており、朝日新聞デジタルや共同通信社などの新聞・通信社にも記事を提供している。
オリコンNewS社の主な収益源は、前述した各メディアへのコンテンツ提供料や、開設しているYouTubeチャンネルからの広告収益などだ。長年、音楽業界やエンタメ業界でビジネスをしてきたオリコンという高い信頼性を持つブランド力に加え、専任スタッフによる取材力や企画力が評価され、メディアとしての信頼性や人気も高い。
だがそんなオリコンNewS社も、常に順風満帆だったわけではない。特にYouTubeチャンネルの開設初期は、苦労も多かったという。
「動画取材NG」が、時代の流れで徐々に変化
オリコンNewS社が、動画ニュース配信先としてYouTubeチャンネルをスタートしたのは2013年2月のことだ。永井氏は「ちょうどオリコンNewS社の立ち上がりのタイミングで、『この先、動画も増えていくだろう』という見込みでニュースコンテンツのフォーマットとして、テキストニュースに加え動画ニュースをスタートしたのです」と経緯を説明する。
今でこそ増えてきたが、YouTubeチャンネルを開設しているメディアは当時まだ多くはなかった。いち早くスタートしたものの、「その後5年は苦しい時期が続きました。ようやくメドが立ったのは2〜3年前のことです」と上野氏は打ち明ける。
「どこに苦労したかといえば、まずイベント取材ですね。いまも少しありますが、当時は動画取材NGのイベントが多かったんです。だからまず、そこから切り開いていかなければならなかった。でも、テキストベースのWebメディア黎明期にも『新聞・雑誌はいいけれど、Webメディアの取材はNG』という時代があったんです。私はORICON STYLEのニュース班にいたので、懐かしい感じでした(笑)」(上野氏)
そんな風向きも、YouTubeや動画コンテンツが注目されるにつれ、少しずつ変わっていった。「ありがたいことに『オリコンだから取材OK』ということもありましたが、やはり動画取材に対するハードルが少しずつ下がっていったのでしょう」と上野氏は振り返る。
ただ、そうかといって動画ニュース全般が爆発的に伸びているわけではない。
「ずっと“動画元年”と言われ続けていますが、いま振り返っても、やはりYouTubeが圧倒的に強く、ほかのプラットフォームではなかなか育たない難しさを感じます。当社の場合、ニュースコンテンツの提供対価が収益ですが、プラットフォームはそうしてアグリゲートしたコンテンツをマネタイズしたり、ユーザー満足度向上につなげたり、いろんな形で展開する立場にありますが、YouTube以外は盛り上がっていません。そこに動画の難しさがあると思います」(永井氏)
登録者増の鍵は地道な編集活動
動画プラットフォームとしての難しさもさることながら、当のオリコンNewS社も、YouTubeチャンネルの運営を軌道に載せるまでは苦しい時期が続いた。前述したように、最初は取材活動が順調ではなく、チャンネル登録者もなかなか伸びなかったのだ。
成長の秘密は何か。上野氏、永井氏は「基本的には一つのきっかけがあったのではなく、地道な編集努力が実を結び、少しずつチャンネル登録者数が増えていった」という。
一例を挙げると、動画コンテンツのトレンドへの対応力だ。エンタメコンテンツにトレンドがあるように、流行っている人やモノ、場所の取材を積極的に行う。細かい部分でいえば、サムネイルの作り方やタイトルの付け方、タグの付け方、概要欄にどんな情報を入れるかなど、さまざまな施策をトライ&エラーで続けている。上野氏は「奇をてらった取り組みではなく、むしろ地味な施策を淡々と繰り返すことで、少しずつ成長していきました」という。登録者数が105万人(2020/10/22 現在)まで伸びたのも、こうした努力の結果だ。
「肌感ですが、登録者10万人、そして30万人のフェーズで“見えないテーブル”があったんです。10万人のところでカクッと上がった後はしばらくなだらかに推移し、30万人でまたカクッと上がった後はもっと速く増加して……という感じです。登録者50万人に到達するには6年かかりましたが、そこから現在の100万人に達するまでには、2年弱しかかかっていません。ちょうどYouTubeの成長曲線とうちのチャンネルの成長が相似関係だったのかもしれませんが、成長イメージとしてはそんな感じですね」(永井氏)
企業とユーザーを取り持つYouTubeチャンネル
現在YouTubeチャンネルでは、取材動画本数は月50本を目標に運営を続けている。インタビューやTVCM、映画トレーラーなどは特に本数は設定していない。4人体制でかなり多忙だが、よほど手が足りない限り、外部に制作を依頼することはほとんどない。
この内製は1つの強みとなっている。というのは、多くのWebメディアはテキスト記事の編集部は存在するものの、動画配信に力を入れているメディアはまだ少ないからだ。
「PRしたい商品やサービスを持つ企業にとっては、どれだけ露出できるかが勝負となります。オリコンメディアでは、TVCMなどエンターテイメントとして成立しているコンテンツに対して、まずテキスト記事で話題性などを主とした拡散をし、YouTubeの動画コンテンツに誘導するという相乗効果を出すことができます」(永井氏)という強みがあり、企業からの引き合いも多い。
「CM素材や映画トレーラーを扱えるのも、イベントの最初に取材に行けるようになったのも、PRしたい企業側からの期待が強くなってきたからでしょうね。先行して記事があり、総合的なオリコンとしての拡散力があるので、コンテンツや情報が集まるようになってきました」(永井氏)
ちなみに、最近よく視聴されたのは、SMBC日興證券が展開している【おしえて!イチロー先生】シリーズだ。このシリーズはSMBC日興證券が運営するYouTubeチャンネルのコンテンツだが、ORICON NEWSチャンネルでも企業が提供している動画をもとに制作チームがシリーズから何本かピックアップしたものを編集し、公開している。元のシリーズの本数が多いのもあり、ライトに見られるORICON NEWSチャンネルをきっかけに、オリジナルのSMBC日興證券チャンネルの動画を見るユーザーも多いそう。同じシリーズに合わせて動画公開を行った他媒体に比べても大きな再生数をはじき出しており、企業が求める露出・拡散力、そして流入に大きく貢献している。
イチロー、「結婚はギャンブル」「嫌われるの⼤好きです」名言連発でみんなの悩みを解決! SMBC日興証券「おしえて!イチロー先生」
企業が動画コンテンツをYouTubeに配信する場合、リスクを考えてコメント欄を閉じているケースが多い。炎上につながる可能性があるし、そうでなくても、何らかの原因でクレームが殺到したら、対応に工数を取られかねないからだ。
同じ動画を、拡散力があって登録者も多いORICON NEWSのYouTubeチャンネルにアップすれば、コメント欄などで市場の反応を見ることができる。また、メディアのコメント欄に感想を書いてもらうことで、自社の動画に対する率直な意見を確認、今後の活動にフィードバックしている企業もあるという。
「そうしたコメントを見た企業さんの自信につながることもあります」と上野氏はいう。ORICON NEWSチャンネルは、直接的な言葉で評価を下す傾向があるユーザーと、企業との間を仲介する“メディア”として、大きな役割を果たしているのだ。
ネットニュースで「オリコン」ブランド強化を目指す
今後、オリコンNewS社およびYouTubeチャンネルをどのように成長させていくのか。
YouTubeチャンネルは、立ち上げ時の目標として「登録者数100万人」を目指していたが、2020年8月21日に達成した。今後の展開として、「オリジナルの番組づくりをやってみたいですね」(上野氏)という思いや、「月次の再生回数1億回を目指したい」(永井氏)という思いがある。いずれにせよ、「オリコンならでは」の特徴や良さがより発揮できるコンテンツ作りと、メディアとしての存在感の向上は、両輪で目指すべき目標だ。
オリコンNewS社には、ニュースの提供・配信を通じ、WebサイトのORICON NEWSへの流入を最大化し、ニュースメディアとしてのブランド力を上げるという役割もある。
「私たちは、いままで以上に信頼性を高めて、ネットニュース分野で『オリコン』というブランド名を浸透させて広めたいですね。ネットニュースは、たとえばYahoo!ニュースで一括りにされたり、ブランドが見えにくいじゃないですか。動画も記事に関しても『これはORICON NEWSだね』と言われるようになりたいですね」(永井氏)
(取材/平松梨沙 原稿まとめ/岩崎史絵)
【お知らせ】
本記事にも出演した上野氏が、JIMA(インターネットメディア協会)主催のカンファレンス「INTERNET MEDIA DAYS 2020」に登壇します。詳細・お申し込みはこちら。