Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

2021年、編集部員がハマったコンテンツを振り返る

 

2021年が終わり、2022年がやってきました。2019年5月にスタートした本メディア「Media×Tech」は、今年で4年目を迎えます。2020年度に引き続き、編集部(と一部執筆陣)の面々が、昨年感銘を受けたり夢中になったりしたコンテンツを振り返りました。コンテンツの積み残しを思い出したり、昨年のトレンドを総括するのにお役立てください。

f:id:zerokkuma1:20220119073143p:plain

 

2021年、読んで/見て/遊んでよかったコンテンツはなんですか?

Wall Street Journal による、いわゆる「Facebook文書」報道シリーズ

www.wsj.com

テクノロジー企業の持つ危険さ(「SNSが有害」という意味より、ビジネス優先と隠蔽体質)を完膚なきまでに明らかにしたこと、そしてジャーナリズムの存在意義を端的に示した特集だった。(編集部・藤村)

Ryuichi Sakamoto 595 NFTs 

lp.adam.jp

楽曲(厳密には音)をNFT化した企画。これまでは曲の権利が資産だったが、音が資産価値を持つようになったことが新しい。(編集部・有野)

ショパン国際ピアノコンクール

research.piano.or.jp

YouTubeでの配信は今回にはじまったことではないのですが、参加するコンテスタントとオーディエンスがソーシャルメディア(Tw、Instagram、TikTok、ブログ)を熱心に更新することで、複数の視点による万華鏡のような宇宙がネットに出現し、それが1ヶ月ほど続きました。しかも、レコードやCDといったフィジカルな音源の制限から解き放たれて、配信によって大量多様な音源で耳と腕を育てたコンテスタントと審査員とオーディエンスによって、これまでよりも自由な音楽が演奏され、評価されるようになり、審査結果はエキサイティングなものになりました。メディア環境の変化がコンテンツに影響を与えたダイナミックな瞬間を目撃したように思います。(佐々木大輔)

映画「テネット」(クリストファー・ノーラン)

TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • ジョン・デイビッド・ワシントン
Amazon

CIAの特殊工作員が、時間を逆行するヒトやモノを目の当たりにしながらテロリストに奪われた兵器を追う……というSFアクション映画(2020年公開)。時間の逆行という要素が映像にもストーリーにも深く関わっており、複雑な構成ながらウクライナ、ノルウェー、インド、イギリスを股にかける息をもつかせない展開。Netflix、Amazon Prime Videoなどで配信中。2時間31分という長編ながら、すぐに2回目も視聴しました。(荻原和樹)

 

映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(庵野秀明)、漫画『ベルセルク』41巻(三浦建太郎)

 

90年代からのめり込み、人生観ともシンクロしてきた2つの物語の区切りが訪れました。1つは「ああこう終わるんだ」という形なので、長年の答え合わせもばっちりできて余韻も楽しめました。今後も何度も観ることになりそうです。もう1つは作者の突然の死という形でやってきました。ここ最近は1年に1回の新刊を楽しみにしてきた30年来のファンとして、大変ショックでした。ただ、41巻の巻末に編集部から作品について「今後は未定」とあったので、もしかしたら続巻もある得るかも? と一縷の希望をいだいて2022年を生きようと思います。(編集部・鷹木)

 

ドキュメンタリー「死刑弁護人」(東海テレビ放送)

shikeibengonin.jp

2012年に東海テレビが制作したドキュメンタリーで、基本的にはソフト化・配信などをしていません。2021年にポレポレ東中野で企画上映していたのを見に行きました。

昭和から平成の死刑事件の多くを担当した安田弁護士に密着したドキュメンタリーなのですが、非常〜〜〜〜に重い! このドキュンタリーで繰り返されるのは「加害者(加害者だと思われている人を含む)をどのように語るか」という問いであり、制作された2012年よりも現在はさらにこの問いを考えることの重要性が増しているように思います。ずっと「加害者」と「加害者の贖罪」に向き合い続けた安田弁護士の言葉が本当に重く、見終わったあと人と感想を言い合いたくなります。

同様のテーマだと『加害者家族』(鈴木伸元)や『海をあげる』(上間陽子)や「ラストナイト・イン・ソーホー」(エドガー・ライト)も「加害者を語る」ことの難しさに向き合っておりいい作品でした。(編集部・青柳)


映画「ボクたちはみんな大人になれなかった」(森義仁)、映画「浅草キッド」(劇団ひとり)、「JAGUARさん帰還」関連コンテンツ(チバテレ/千葉日報/日テレ/イースト・プレス)、書籍『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』(矢田海里)、『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(マイケル・サンデル)

www.bokutachiha.jp

 

www.netflix.com

www.chiba-tv.com

Netflixの2作は、平成&昭和ノスタルジーが満喫できました。「ボクたちはみんな大人になれなかった」は、就職氷河期世代の我々には「わかる、わかる」の連続なのですが、一方で、現在と地続きだと思っていた[90年代]はもはやファンタジーなんだなと思い知らされたとも言えます。そろそろおもいで箱の蓋は閉めて、前を向いていこうぜ、という。
「浅草キッド」は、シンプルに昭和の"笑って泣けて"が楽しめました。昭和カルチャーつながりでついでに言うと、豊島区のトキワ荘マンガミュージアムも2021年に初訪問し、大満足。このタイミングで藤子不二雄A先生の「まんが道」を再読するなど。(本施設は2020年夏にオープンしていたのですが、コロナもあってなかなか訪れるチャンスがありませんでした)。

千葉の英雄として名高い、ロックミュージシャンのJAGUARさんが、自分の星に"還った"という衝撃的ニュースも、千葉県民としてピックアップしてみました。地元テレビ・新聞でのトップニュース扱いから、日テレ「月曜から夜ふかし」での「ありがとう ジャガーさんSP」放送、そして書籍「ジャガー自伝 みんな元気かぁ~~い?」の出版まで、一連のコンテンツの流れが美しかったと思います。

東日本大震災から10年の節目ということで、一人のベテランダイバーの目を通してあの震災を振り返った一冊『潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景』

人文系ではサンデルの新刊『実力も運のうち 能力主義は正義か?』。Audibleで浴槽に使ってじっくり聴きました。(編集部・荒牧)

 

TBS NEWSのYouTube、映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(村瀬修功)、天野喜孝の法華経画

www.youtube.com

TBS NEWSのYouTubeの中でも、「須賀川記者、タリバン報道官に問う」がとても印象深いものでした。切り口も素晴らしかったですが、これ以外にも、「記者の頭上でロケット弾迎撃...パレスチナ側とイスラエル軍衝突激化」など、イスラエルでの紛争でのアイアンドームの実体に迫るような体当たりのレポートがあり、これぞ報道機関という内容でした。今年のナンバーワンです。

映画では「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」。いわゆるガンダムらしさ的なニュータイプみたいなファンタジーが「ない」ストーリーです。初見でみても問題ない。独裁政権下の生活が垣間見えるようなシーンが多数あって(連邦高官の腐敗や、現地住民への弾圧、etc)、ミャンマーなどで起きている弾圧のニュースと被って考えさせられた一作でした。

www.sankeibiz.jp

僕が好きなファイナルファンタジーのイラストレーターである天野さんが法華経画を手がけたことも大きなニュースでした。要はブランド(日蓮宗)がクライアントとなって作った、プロダクトコンテンツなのではないかと思ったのです。こういった驚きを与えてくれるようなコンテンツは楽しめて、非常によかったです。(編集部・三木)

書籍『Humankind 希望の歴史』(ルトガー・ブレグマン)

「人間は善である」を論拠する本だと聞いて、いかがわしいスピリチュアルな本なんじゃないかと疑って、しばらく読まなかった。でもどこか気になっていて、いざ読み始めたら一気読みしてしまった。そうしたらなんと、ジャレド・ダイヤモンドの「文明崩壊」で語られていた「イースター島は人々の争いの末に木々が一本もなくなった」説は誤りだと指摘したり、「スタンフォードの監獄実験」、心理学で「傍観者効果」の代表例と言われる38人の目撃者が女性を見殺しにしたと言われる「キティ・ジェノヴィーズ事件」などが捏造だと言う。いままで自分が真実だと思っていたことが否定されるのは人間の悪の本性を暴く、という書き方が多いが、この本は「だから人間って本当はいいヤツなんだよ」という方向でショックを与えてくる。

果たして本当かと「キティ・ジェノヴィーズ事件」の真相を追ったドキュメンタリー映画を見てみようかと思ったが、いま配信されていないらしいし、ブログの感想を読んでも、本で書かれているほど捏造を明らかにした映画でもなさそうだ(しかしこれまで聞いた話ほど、誰もが傍観していたわけでもなさそうだ)。

そういうわけで何が本当かはわからなくなってくる。いずれにせよ、「NewsDiet」という本でもネガティブなニュースに触れ続ける危険性が指摘されていたように、どういう情報にどういった態度で触れるべきか?は重要な問いだと思った。

僕も去年はコーチングを学ぶ中で、「すべての答えはクライアントが持つ。だからクライアントの可能性を信じる」という重要性を何度も聞かされてきた。なので今年から、「人間は善である」という価値観で物事を眺めてみると、また新しい発見が生まれるのではないかと思っている。そもそもそっちのほうがずっと希望がある。(編集部・高野)

 

小説『断絶』(リン・マー)

2018年に刊行されたパンデミック小説。中国発、かかると体が腐ってゾンビ化し死に至る「シェン熱」が蔓延したニューヨークで、淡々と仕事をし続ける中国系アメリカ人キャンディスの倦怠が描かれるのですが、現在の私たちの生活に重なるところが多く、とても示唆的でした。ゾンビ/非ゾンビに限らないあらゆる断絶ーー男と女、都市と地方、オンラインとオフライン、中国系アメリカ人と本国で暮らしつづける親族の描写を重ねながら、インターネットや資本主義に支配された社会で「ゾンビであること」と「ゾンビでないこと」にどういう違いがあるのか?という問いに迫る傑作です。

ボブが咳払いしたので、私たちは黙った。俺がインターネットの話をしたのはそもそもインターネットとは何かを考えてみたいからだ。インターネットは死んだ、だが我々はそれでなにを失ったのか?

自分の問いかけに応えて、ボブは持っていたビールを置き、メガネをくいと上げると、説教を始めた。
インターネットは時間のフラット化だ。過去と現在が、たったひとつの平面に存在する場所だ。だが、相対的に言えば、現在とはーーいま、こうして話をしているときもーー石化して過去になっていくものだから、インターネットというのは完全に過去だけでできていると言うほうが正確かもしれない。我々は過去に交わるためにそこを訪れるのだ。(132、133ページより)

(編集部・平松)

 

映画「由宇子の天秤」(春本雄二郎)

bitters.co.jp

ドキュメンタリーディレクターの木下由宇子は、父が経営する学習塾を手伝いながら、数年前に大騒ぎになった女子高校生自殺事件を追いかけていた。その生徒との交際が報じられた教師も「女子生徒と交際の事実はない。虚偽の報道に死をもって抗議する」という遺書を残し自殺していたのだ。 由宇子は取材をかさねる中、報道のあり方に疑問を感じ、それを訴える番組をつくろうとするが、テレビ局側からボツにされ、再編集を命じられる。

ーー序盤はそんな展開なので、マスコミのありかたを告発する作品かと見ていたら、そこからどんどん話が思わぬ方向に転がっていく。なにが正しいか、誰を信用すればいいのか、そもそも自分は信じられるのか、という問いを静かに、しかし強烈に投げかけてくる。 ぼくは途中で口の中が乾いてきた。取材経験のある人は、途中からひりひりする緊張感にとらわれるのではないだろうか。 フェイクニュースや誹謗中傷がネットメディアだけの課題ではなく、人間の業に深く根ざすことをあらためて考えさせられる。 昨年公開中、まわりのメディアに関わる人には、強くおすすめした。 由宇子役は瀧内公美、監督は春本雄二郎、プロデューサーとして片渕須直が加わっている。

(スローニュース瀬尾)

 

2022年、どんなコンテンツに期待する?

  • Axios のように、簡潔かつシャープな報道メディアの発展と、ライブストリーミングのような“ナマ”な迫力を伝えるコンテンツプラットフォームの発展(藤村)
  • CHAGE&ASKAが配信にきてほしい。そろそろ。(佐々木)
  • NFTを含むブロックチェーン技術を利用したコンテンツ管理システムの流通(有野)
  • 昨年から暗い話題が続くので、よい意味で「くだらない」コンテンツを楽しみたいです。(荻原)
  • ついにFacebookがMetaになりました。VR来るよね?(来ないかな? 来るなら子供や高齢者も使えるようになってほしい~)(鷹木)
  • 「DLsiteがるまに」(女性向け同人販売サイト)(青柳)
  • Quest2でVRを少しゲームを遊んだり、少し英会話に挑戦したりしましたが、まだ満喫しきれてないです。面白いコンテンツに出会いたいですね。(荒牧)
  • あれはすごかった。と思えるような心に残るものに期待してます。(三木)
  • 良いニュースに期待したいです。(高野)
  • ステイホームと自身の環境の変化で、インターネット依存がますます加速している一年でした。インターネットから切り離されて楽しむコンテンツを模索したいです。(平松)
  • そろそろデジタルメディアから強烈な社会的インパクトをもたらす調査報道が生まれてほしい。もちろんSlowNewsもがんばります!(瀬尾)