Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

サードパーティCookieの利用停止に、私たちはどう向き合うべきか

2020年、Googleが発表したのが、Webブラウザーにおける「サードパーティーCookie」サポートの終了。代わりに同社が導入を進めているのが「FLoC(Federated Learning of Cohorts)」だ。当初2022年と発表されていた導入期は先日2023年に延期になるとアナウンスされたが、Cookieによる情報収集に基づきインターネット広告収益を得てきたメディア業界にとって、対応案に頭を悩ませる日々が続いている。

今回はデジタル広告のセル・サイド・プラットフォームであるパブマティック株式会社 カントリーマネージャーである廣瀬 道輝氏に、サードパーティCookie廃止の影響と、パブリッシャーがとるべき対策について寄稿してもらった。

 インターネット広告の変革期到来

COVID-19は多種多様な業界に多大な影響を与え、コロナ禍における生活行動、消費行動にも大きな変化を与えました。巣ごもりに象徴されるように人々は家の中から全てを完結できるように世の中も変化し、急速にデジタルトランスフォーメーションが加速したことで、インターネット広告はコロナ禍にあっても前年比105.9%という伸び(電通2020年  「日本の広告費」より)を示しました。

しかし、インターネット広告はこれから、大きな変革期を迎えようとしています。それがトラッキング用サードパーティCookieとの決別とAppleによる行動トラッキングに対し、ユーザー許可を必須とするポリシーの変更です。

Cookieというインターネット草創期の遺産

適切な範囲でのユーザーのトラッキングはデジタルマーケティングの根幹です。インターネット広告と他の4マス広告との大きな差別化ポイントはターゲティングとレポーティングです。精度の高いターゲティングと詳細なレポーティングによる費用対効果の高さが、他の広告予算からインターネット広告へのシフトを加速させていました。そのトリガーとなっているのが「Cookie」です。Cookieは、ユーザーがあるWebサイトにアクセスした後にユーザーのWebブラウザに書き込まれる小さなテキスト情報です。これによりユーザーの行動、習慣、好みをよりよく理解し、Web上のユーザーを追跡できます。

この情報は、次のようなWeb上のユーザーをターゲットにするために使用されてきました。

  1. パーソナライズされたマーケティングコンテンツとオファーを過去の訪問者に送信する(広告にトラッキングされるのはこのためです)。
  2. 同様のブラウジング行動と関心を持つ他のユーザーに広告を配信する(マーケターはこれを使い費用対効果のよさそうなユーザーへ広告を配信しています。
  3. ユーザーがWebサイトを離脱した場合に再度訪問を促したり、購買を完了するように促す(マーケターはこれによりさらに投資対効果をあげることができます)

しかし、このターゲティングをCookieというインターネット草創期から利用され続けてきた遺産ともいうべき古い技術に依存してきたツケを今清算しなくてはいけないタイミングにきたのです。

なぜ清算しなくてはならないのか。

それはサードパーティCookieが欧米を中心にスタンダード化しているGDPR(EUが施行した一般データ保護規則), CCPA(米国カリフォルニア州施行の消費者プライバシー法)などのプライバシーポリシー保護の厳格化に耐え得るものではなくなったからです。AppleのIDFAについても同様です。

執筆時点で、日本ではまだサードパーティCookieが個人情報保護法に当たると厳密には適用されてはおりませんが、今回のテーマであるCookieやIDFAを直接扱っているのは、インターネットブラウザやアプリでありこれらを提供している企業の判断に依存し、コントロールされているところがインターネットの興味深いところです。というのもプライバシーポリシーの厳格化は今にはじまったことではなく、年々高まっており、インターネットブラウザ大手であるFirefoxやAppleのSafariなどは、実はすでにサードパーティCookieによるトラッキング防止機能を数年前より段階的に実施しているからです。インターネット広告で収益化をしているパブリッシャーの広告収益の減少が予測されており、アドテク企業はこれらの動きによりインパクトを受けています。

 

サードパーティCookie廃止の影響とは

そして2020年に最大のブラウザ利用率を誇るGoogle社のChromeでサードパーティCookieの廃止が宣言され、Apple社はiOS14.5へのアップデートからIDFAでのユーザートラッキングにはユーザーの承諾が必須という形になる事態になっています。

これによりほぼサードパーティCookieを使ったトラッキングが不可能になり、マーケターはターゲティングする術を、パブリッシャーはマネタイズする術を失います。大手インターネット企業のポリシー対応如何によりインターネット広告のエコシステム自体が左右されるという業界がインターネット広告業界なのです。

ちなみにこの一連の動きはネガティブに見えたり聞こえたりするかと思いますが、

悪いことではありません。ユーザー視点ではプライバシーポリシーが厳格化することはユーザー自らを守ることに直結し、見えないところで自分が許可していないデータが利用されることを制御することが可能になるのです。マーケター視点では、まず個人情報に抵触する可能性のあるデータへアクセスをせずにすみます。 

そしてサードパーティCookieの課題であったクロスデバイスでの追跡ができず、ユーザーのカスタマージャーニーに対して適切な予算配分ができない。またクリックやコンバージョンカウントの正確性に課題もありそれらを暗黙の了解としていました。

パブリッシャー視点では、パブリッシャーとユーザーの関係性がさらに強くなることになります。

ウォールドガーデン vs オープンインターネット

インターネット広告エコシステムが生まれ変わらなくてはならないだけです。

5年後には当然過去の話になっており、新しい安全な形でのインターネット広告エコシステムができているはずです。それは、いわゆる産みの苦しみともいうべきものかもしれませんが。

ポストCookieの世界では、一時的にでもウォールドガーデンと呼ばれるGoogle、Apple、 Facebook、Amazonなどの壁がさらに上がる可能性があります。

(ウォールドガーデンは、巨大プラットフォームがそれぞれビッグデータを元にビジネスを行う一方で、それらのデータ利用が各プラットフォーム内に閉じてしまい、他社の自由にならない世界を指す言葉として用いられています)

 

理由は簡単で、彼らは既に豊富な会員情報を持ち、すでにそのデータを活用しさらに彼ら独自のアルゴリズムで広告配信をしています。サードパーティCookieがなくなった時に有力な代替ソリューションがなかった場合、多くの広告予算が既にパフォーマンスの担保があるウォールドガーデンの広告エコシステムに予算がシフトすることは自然だからです。

ウォールドガーデンの外の世界、オープンインターネット(オープンWeb)では独自に会員情報を収集できているパブリッシャーとそうでないパブリッシャーが存在します。

「Cookieレス」の世界、ポストCookieの世界ではこの2つパブリッシャーがどのように対応していくべきかを探っていかねばなりません。

ポストCookieの代替手段は?

デジタルマーケティング業界の現状がどうなっているかというと、インターネット業界をあげて代替手段を模索しているのが現状です。

現時点で万能な方法は存在しません。

今回は、複数のアプローチが現在おこなわれていることをお伝えしたいと思います。

まず、CookieとIDFAの切り分けから。

サードパーティCookieはブラウザ上で稼働するので、ブラウザーベースの話になります。

Apple社のIDFAはデバイス単位での話になり、IDFAについては各アプリデベロッパーがApple社が提供するAppTrackingTransparencyフレームワークを使用し、ユーザーに承諾を得る必要があります。

広告配信関連はアプリデベロッパーとそれにまつわるベンダーがSKAdNetworkにまず対応することからはじまると思います。

今回はお題がポストCookieということであるので、IDFAについては触れるだけにします。

サードパーティCookieの代替としては、まずGoogle社の対応を大多数のパブリッシャーが注視しています。

Google社がサードパーティCookieの廃止にとどめを刺した格好になるので当然といえば当然です。

Google社は現在Web技術の標準化団体W3Cと協力して、ポストCookieの代替となるアイデアを共有し、外部からのアクセスを厳しく制限された領域を意味する複数のプライバシーサンドボックス案が並行して進行しています。その内の一つであるFloC (Federated Learning of Cohorts) という、個人ではなく同じような興味感心を持つ少なくとも1,000人以上をグルーピングしてIDを付与し、ブラウザ上のコンテクストやコンテンツなどの興味関心と行動情報に対してターゲティングに利用できるようにするようです。。Google社のアナウンスではサードパーティCookieと比較し、それなりの効果を言及していますが 、FloCを導入できたとしても、結局対象となるブラウザはChromeだけとなり、その他のブラウザには影響がないことも認識しておかなければなりません。

2つの「アイデンティティーソリューション」

一方で大きく動きがあるのは「アイデンティティーソリューション」(以下IDソリューション)です。

これは大きく分けて2つに分けられます。

ひとつは、e-mailや電話番号などの確定データを匿名化し、別のIDに置き換えるものです。

主なソリューションとしては、LiveRamp、Unified ID 2.0などがあげられます。

もうひとつは、個人を特定できるデータではなく、アルゴリズムやデバイスなどを類推してIDに置き換えるもの(推定確率論的アプローチ)です。当然前者よりも精度が低くなります。

ソリューションとしてはPallable等があります。またこの2つの折衷型のIDソリューションも存在します。

現在世界中でIDソリューションが立ち上がってきており、各社切磋琢磨している状況です。

IDソリューションは広告主側、パブリッシャー側双方が導入しなくては始まりません。一致させないといけないからです。

会員データをもっているパブリッシャーの皆さんには、それらのデータを是非、IDソリューションに置き換えることで非常に大きな武器を手にすることができる可能性が高いです。

なぜなら、確定データベースのIDが一番精度が高くなるからです。

ただ、皆さんご存知のとおりログインデータなどユーザーから収集したデータを潤沢にもっているパブリッシャーは一握りかと思います。しかし数が少ないからといって諦める必要はありません。

今後パブリッシャーや広告主側が取り扱うIDソリューションはひとつではないからです。

予想としては、e-mailアドレスなどログインデータをもっているパブリッシャーはまず、それらを確定データベースのIDソリューションに置き換えることで、一番ターゲティング精度の高いIDを流通させることができ、これらのIDは必然的に高単価になり収益的にもパフォーマンスが一番高くなると思われます。

次いでログインデータがない場合でも、前述の推定確率論的アプローチのIDを取り入れることで精度は確定データベースのIDには劣るものの、ターゲティングが可能になります。

そして、Googleのグループ単位でのアプローチのIDも導入することで推定確率論アプローチのIDには劣るもののターゲティングされるようになります。

マーケティングでよく見るピラミッドやファネルをイメージしてください。

流通量が少なく、希少なデータ→確定データベースのID

流通量は確定データベースのIDより多く、重要なデータ→推定確率論ベースのID

流通量が多く、価値が高いデータ→グループベースのID

このようなイメージです。

ですので、広告マネタイズに関わっているパブリッシャーの皆さんは一つのIDソリューションでなく複数のIDソリューションを活用する必要があることがイメージできるのではないでしょうか。

前述のようにグローバルで流通するID,ローカルなマーケット例えば日本でだけ流通するIDなど、現時点でどのIDソリューションが普及し、活用されるのかは誰にもわかりません。

我々ができることはいかに、状況を把握し、考え、他社より早く実践していくかです。

日本のパブリッシャーのみなさんはどうしても横並び、他社の様子をみてというスタンスが多く見受けられます。

しかし、このサードパーティCookieの廃止は期限が決まっており、IDを導入流通させるためにはある程度時間が必要です。

積極的に取り組むことで、インターネット広告の収益化を早め、高めることが可能になります。

行動を起こせないパブリッシャーは自社のメディアにどのIDが合うのか、どのオプションが最適なのかを判断する機会を諦め、GoogleのグルーピングされたIDとの連携を待つことになるでしょう。

最後に、ポストCookieは他人事ではありません。Cookieがない世界がどうなるかを理解し、将来起こりうる状況を見据えてパブリッシャーはユーザーとの関係性を改めて見直す機会でもあります。エンゲージを図るためにすべきことはなにかを考えましょう。その一つがログインIDの収集であったり、ファーストパーティデータの収集、活用です。

あらたなテクノロジーを発見しトライしてみる。視野を拡げ情報収集を図りましょう。

コンテンツのクオリティー、ボリュームの向上はプロコンテンツを提供しているパブリッシャーの本業ですが、広告でマネタイズしている場合、この状況を見て見ぬ振りをすることは=マネタイズの放棄を意味します。

 

パブマティック株式会社 カントリーマネージャー 廣瀬 道輝

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2004年アイレップ入社。サーチエンジンマーケティングに従事後、2009年シーサーに入社しブログメディアやアプリ開発における広告営業、マネタイズに従事。その後、マリンソフトウェアの営業職を経てパブマティックに2014年に入社し新規媒体社開発に貢献、2016年に既存顧客を担当するカスタマーサクセスディレクターに昇進し、シニアカスタマーサクセスディレクターを経て、2019年より現職。

【イベントのお知らせ】
Pubmaticがオンラインで開催するグローバルサミット「Envision: What’s Next For Addressability」(2021年7月14日の豪州東部標準時午前9時〜)にて、廣瀬氏がモデレーターとして登壇する日本語セッションが開催されます。

「コネクティッドTVとデジタルマーケティングが融合する未来予想図 ~アドレサブルな世界の到来~」

パネリスト:

株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長 簗島 亮次 氏

MediaCom HEAD OF PROGRAMMATIC 川崎 慧 氏

モデレーター:

パブマティック株式会社 カントリーマネージャー 廣瀬 道輝

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