Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

コマースでメディアの可能性を拓く——「ポストCookie時代」のメディア①

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近年メディア業界、そして広告業界で話題となっているのがサードパーティCookie規制後=ポストCookie時代の広告、そしてメディアビジネスのゆくえだ。広告費を主な収益源としてきたメディアにとっては、広告の精度が落ちれば、ビジネス自体の死活問題だ。
本企画ではこうした状況に置かれたメディアビジネスにとって、新たな収益の可能性やその戦略を探っていく。今回は「メディアとコマース(物販)ビジネス」の可能性について、「ギズモード・ジャパン」など12のメディアブランドを運営する株式会社メディアジーン、「北欧、暮らしの道具店」を営む株式会社クラシコムに話を聞いた。コマースとの連携を企画するメディア運営者はぜひ参考にして欲しい。(編集部)

広告か、購読料モデルか、それともコマースか

メディアの大きな収益源であるインターネット広告が、いまターニングポイントを迎えている。インターネット広告では、ユーザーの興味関心や属性に合わせ、最適な広告を配信するターゲティング広告のためにWebブラウザのCookieが利用されてきた。また、スマートフォンではCookieに相当するデバイスIDが用いられてきた。
このCookieのなかでも、「サードパーティCookie」と呼ばれるアドネットワーク事業者が発行するCookieの利用が年々難しくなってきたのだ(スマホにおけるデバイスIDについても同様な流れだ)。

Cookieには、Webブラウザのユーザーがどんなサイトを閲覧し、どのような行動をしたのか履歴が残されている。サードパーティCookieは、その情報をアドネットワーク事業者が広範囲に収集し、ユーザーをターゲティングのために使うものだが、世界で高まるプライバシー保護の観点により、4、5年前から法的規制策が講じられてきている。2022年4月に施行される日本の改正個人情報保護法もこの流れを受けている。

技術的な規制もある。すでにFireFoxやSafari、そしてMicrosoft Edgeなどの主要Webブラウザは、サードパーティCookieを廃止しており、Google Chromeも2023年には廃止する方針を発表した。これを受け、自らも広告事業を営むGoogleでは、Cookieに代わるターゲティング技術の開発に余念がない。

いままでアドネットワーク経由の広告配信で収入を得てきたメディアも、当然この影響は避けられない。メディア価値を上げて純広告やスポンサード広告などの商品を拡充し、広告事業のさらなる強化に乗り出すか。それとも有料購読(サブスクリプション)型モデルに切り替え、読者とのエンゲージメント強化を図るべきか。
それ以外の道を模索するメディアもある。その道こそ、コマースだ。

コマース事業を展開するメディアジーン、メディア機能を持つクラシコム

2021年9月15日、ガジェット専門ECショップ「ギズ屋台」の提供を開始したメディアジーン。「ギズモード・ジャパン」や「ライフハッカー[日本版]」、暮らしの情報の「ROOMIE」や「MYLOHAS」など12の人気メディアブランドを運営しているメディア企業だ。

 

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ギズ屋台 トップページ

「ギズ屋台」は、ギズモード・ジャパン編集部のキュレーション力と発信力を活かしたガジェット系のセレクトショップだ。シンガポールを拠点としてものづくりプラットフォームを提供するテクノロジー企業・AnyMind Groupと提携し、次世代型メディアコマースを目指すという。

同社は5年前にも、アイディアのあるクリエイターと読者をつなげるクラウドファンディング「machi-ya」(マチヤ)を立ち上げた。クラウドファンディングサービスはほかにもあるが、machi-yaの強みはメディアジーンが運営する各メディアを使ったメディアプロモーションがセットになっていることだ。ユーザーがその記事を見て、興味を持ったプロジェクトがあれば支援を行う。プロジェクトオーナーであるクリエイターは、プロジェクトが完遂したらリターンを送る。この仕組みをメディアジーンが運営している。

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machi-yaトップページ

もう1つ、注目したいのが、「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムだ。
「北欧、暮らしの道具店」は月間200万ユーザーが集うライフスタイル系メディアであり、ショッピングサイトだ。メディアとして、同社がセレクトしたインテリアやグッズ、ファッション、コスメなどの紹介ストーリーや、編集部が提案する世界観を楽しむことができる。一方でECサイトとして、紹介されている商品をその場で購入することもできる。

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北欧、暮らしの道具店 トップページ

こうした意味では、「北欧、暮らしの道具店」は厳密にはメディアといえないかもしれない。

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クラシコム 代表取締役 青木耕平氏

事実、クラシコム 代表取締役 青木耕平氏は、

 私たちはメディアではないですし、お客様には自分たちのことを「お店」として説明しています。ただ事業の形態は、コマースだけではありません。「北欧、暮らしの道具店」を運営してきた企画や編集力を背景に、『ブランドソリューション』という企業のマーケティング支援など多様な展開をしており、メディア的な要素も持っていると思います。そこで最近は自分たちのことを「ライフカルチャー・プラットフォーム」と名づけて事業を説明するようになりました。

と話す。

メディア事業にとってのコマースの価値、コマース事業にとってのメディアの価値

メディアにとって、コマース事業はどのような価値があるのだろうか。
メディアジーン 取締役CSO(Chief Strategy Officer) 事業戦略部門担当の芹澤樹氏は、メディアとコマースの関係について次のように話す。

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メディアジーン 取締役CSO(Chief Strategy Officer)事業戦略部門担当 芹澤樹氏

ギズモードなどは、ターゲットメディアですが、ファーストパーティデータ(自社サイト内で収集できるデータ)の取得がプログラム化されていないというのが大きな課題でした。そこで全社的に汎用性のあるビジネスでファーストパーティデータをどのように取得するかを考え、コマースで大きな最終コンバージョンを取るという戦略がありました。

そのうえで、メディアとコマースを融合したビジネスの強みについて、次のように説明する。

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メディアジーンの成長戦略

月間3,000万読者に、メディアを通じてプロダクトのストーリーをコンテンツとして紹介し、コマースへの送客を促します。その購買データやユーザーの体験データが蓄積されてくると、ブランドに提供するデータや広告の価値が上がります。それだけでなく、ユーザーの反応や行動というファクトに基づいた商品企画・開発や、ターゲットユーザーに合わせたメディアとストーリーを提供することで読者とのエンゲージメント強化にもつなげられます。また、ユーザーの購買履歴に基づいて広告を表示するといったことも今後可能になってくると考えています。(芹澤氏)

一方クラシコムの青木氏は、メディア事業とコマース事業の関係を冷静な視点で眺めている。

「極論ですが、ビジネスのスケーラビリティを追求するとしたら、小売や物販に絞ることが最もスケールが出ると思います」と青木氏はいう。

アドネットワークで自社メディアに広告を入れてマネタイズしようと思っても限界があります。言っても、私たちのWebサイトの配信ボリュームやPVはたかが知れているので、0.xx円からの広告費とPV数を掛け合わせても大した収益にはなりません。しかしコマースの粗利益を総PVで割ると、1PV当たり10円くらいの粗利益が出ます。コマースのほうが、PVの換金効率が圧倒的に高いんです。(同)

圧倒的なPVがないと、広告だけではマネタイズできない。そうかといって、読者とのエンゲージメント強化を図るためにターゲットメディア化をすればPVは稼ぎにくい。質は高くなっても、「ターゲティングした途端にPVが減ってしまうので、広告でのマネタイズには限界があります」(同)というのだ。

一方、コマースでマネタイズしていると、その商品や世界観に惚れ込んだユーザーが集まり、ターゲットメディア化しやすい。しかもコマースという収益の柱があるので、一般のメディア企業と比べると圧倒的に競争力がある状態でターゲットメディアができる。そのターゲットメディアで多くの人が共感できるカルチャーや世界観を貫くことで、読者=顧客のエンゲージメントはさらに高まる。

実際、青木氏も、

お客様がコンテンツに触れることで、自身の生活のなかにコンテンツを取り入れたいという思いを高め、フォローをしたり、アプリを入れたりという形でエンゲージメントしてくださいます。そして私たちも毎日プッシュでコンテンツを届け、リテンションを高め、購入動機を促し、LTV(顧客生涯価値)を最大化していく。ユーザーの可処分所得と可処分時間をなるべく多くわれわれに向けてもらうことを目指しているんです。(青木氏)

と話す。

メディアのコマース事業はどこまで伸びるのか

メディアジーンに話を戻し、メディア事業にとってコマース事業がどれほど「収益」につながっているかを見ておこう。

同社が現在進めているコマース事業の収益は大きく2つのパターンがある。

まず1つはアフィリエイトモデルだ。記事内で紹介したガジェットや商品に興味を持ったユーザーを、Amazonや楽天などのECサイトに送客し、売上に応じたアフィリエイト報酬を得る。これが現在、同社のコマース事業を支える最大の柱となっている。

もう1つは、machi-yaやギズ屋台など自身でコマースサービスを展開するパターンだ。こちらはコマース事業としての収益とともに、前述したようにファーストパーティデータの収集という位置付けもある。なお同社では、machi-yaの実績データを基に、ユーザーに人気の素材や商品の傾向を積み上げ、チタンブランド「TITANO」を立ち上げたほか、クリーンビューティコスメ「7NaNatural」や男性向けアンダーウェア商品の開発なども進めている。

将来、同社の広告事業とコマース事業のシェアはどのように変化すると見ているのか。

5カ年計画を立ててコマース事業を見ていますが、数年後にはおそらく現在以上のシェアになると思います。とはいえ、広告事業がなくなるとは考えていません。前述したように、コマースが伸びることで、広告事業も伸びると見ています。ただし、市場の伸び率としてはコマースに比べ高くないと予想されます。(芹澤氏)

現在のコマース事業にも課題はある。まずアフィリエイトモデルの場合、最終的なファーストパーティデータが取れない。購買の傾向値や売れた商品は把握できるが、実際に商品を購入したユーザーの情報はECサイト側でしか把握できない。そこで同社ではmachi-yaやギズ屋台によるファーストパーティデータの拡充に努めるほか、サブスクリプション(購読)モデルの「Business Insider Japan」や「DIGIDAY[日本版]」、「MYLOHAS」の会員情報によるファーストパーティデータの収集も続けている。加えてアフィリエイトモデルの商品紹介メディアが増え、強力な集客力を持つ競合も現れたことも懸念のひとつだ。

自社運営コマースの舵取りを今後どう進めていくかという課題がある。メディア×コマースの結びつきが強くなると、メディア内で自社のコマースに誘導する枠の比重が増えてしまい、広告枠を費消してしまう。

スケールするために、コマースの商品カテゴリを増やしてそれに対応する紹介メディアを立ち上げるというやり方もあるでしょうが、それだと面の問題は解決しません。そこで、いずれメディアのコンテンツに頼らずに自発的に購入が生まれるまったく新しいプラットフォームをローンチすることを予定しています。

と芹澤氏はいう。

メディア機能で培った企画力を他事業に生かすクラシコム

クラシコムでは主要事業「北欧、暮らしの道具店」のなかで、3つの側面をもっている。

1つはD2C(EC販売業)で、「北欧、暮らしの道具店」が提案する世界観に共感するユーザーに対し、暮らしにフィットするインテリアやファッション、雑貨などを販売している。

もう1つは、コンテンツ・パブリッシングだ。「北欧、暮らしの道具店」の世界観を、コラムやポッドキャスト、ドラマ、ドキュメンタリーなどさまざまな媒体で表現し、パブリッシングしている。DVD販売や劇場映画の制作、企業とのタイアップ・コンテンツなど、コマースとは異なる収益の柱となっている。

最後の1つは、2015年から展開しているブランドソリューションだ。「北欧、暮らしの道具店」のブランド力や編集力と、コンテンツ・パブリッシングで培った企画制作力を活かし、企業のブランディングを支援している。広告販売ではなく、商品開発からプロモーションまでブランディングプロセスの全フェーズをサポートするメニューをそろえており、ナショナルクライアントを中心に100社以上の企業との取引実績がある。

クラシコムでは、このブランドソリューションの粗利益をD2Cのマーケティング投資の原資としているそうだ。青木氏は「純粋にメディア的な部分で稼いでいる金額としては収益は高いほうだと思う」と話し、これに伴いD2Cも伸びていると打ち明ける。

そのメディア的な“企画力”を可能にしているのは、社員1人ひとりが「北欧、暮らしの道具店」が醸す世界観に共感していることにも関係があるだろう。青木氏によるとクラシコム社員の8割は同社の顧客であり、読者=顧客像のインサイトはよく理解している。定期的に読者アンケートを取り、読者理解にも努めていて、その結果生み出された施策や取り組みがまた受け入れられるという好循環が形成されている。

 この世界観のなかで、ナショナルクライアントなどのブランドも「訴求したい」と考えるわけだ。こうした形で、コンテンツとコマースやその他事業が互いに良い影響を与えながら成長してきたことがわかる。

ちなみにクラシコムでは「北欧、暮らしの道具店」で読者参加型であるCGM(Consumer Generated Media)を展開することは考えていないという。

ディズニーランドと同じで、一貫した世界観を作るためには、やはり異質なものが入る可能性は少なくしたほうがいいと考えています。ユーザーに編集権を与えず、われわれがしっかり作った世界観のなかで読者に楽しんでいただくことを意識しています。(青木氏)

事業シナジーをどう作っていくか

メディアにとってコマースは、広告費以外の収益源であり、ファーストパーティデータの収集手段としての読者接点ともなる。一方、コマースにとってのメディア機能は、商品1つひとつのストーリーや扱う商品カテゴリの世界観を伝えるものであり、ファンを集めてエンゲージメントとLTVを高める大切な接点となっている。この2つは相反する事業ではなく、実際にクラシコムでは「北欧、暮らしの道具店」で培った洗練された世界観を背景に、他事業展開も成功裡に進めている。

メディア業界からコマースを展開し、事業の可能性とファーストパーティデータ収集に当たっているメディアジーンの芹澤氏は、

まだファーストパーティデータは各メディアで分散していますし、具体的にデータをどう活用していくのか、メディアとコマースの好循環をどう実現させるのか、全社としてどういう価値を出していくかという点については、まだ考える必要があります。

と話す。

新たな人材も必要だ。実際、メディアジーンがコマース強化を図り始めた当初は、既存の編集部員から理解を得られるのに時間がかかったという。そこでコマース事業側で別に編集担当チームを用意し、メディアから枠をもらって事業側で記事を作成することから始めた。コマース事業が伸びたことで、編集部側も積極的に協力するようになり、意識も変化していったという。新卒社員をディレクターとして多く投入し、芯からの編集者というよりも事業企画視点で物事を捉え、編集できる人材を育てていったことも役立った。

ポストCookie時代のメディア戦略として、コマースは大きな可能性を秘めた事業といえそうだ。
(聞き手:Media×Tech編集部、まとめ:岩崎史絵)