Media x Tech

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中国ニュースアプリ Toutiao、クリエイター戦略をひも解く

 

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1億近いDaily Active User数(2018年2月Questmobile調べ)を誇る中国メディア界の雄「Toutiao(簡体字:今日头条)」。Toutiaoは今まさに圧倒的な成長を続けており、2019年7月のニュースアプリの総合ダウンロード数で全世界1位だ(なお、SmartNewsは総合6位にランクイン)。母体のByteDanceは現在の評価額が世界でも屈指のユニコーンスタートアップである。 

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Sensor Tower「Top News Apps Worldwide for July 2019 by Downloads」より引用

 

Toutiaoはいま中国におけるUGC(※)プラットフォームを事実上支配している。動画分野におけるUGCにおいても、ByteDanceはTiktokによって世界トップシェアを誇っており、多くのユーザーが集い、大量のPVを日々発生させるその仕掛けは、これからのメディアエコシステムの一つの形と言える。

 ※UGC:User Generated Content:一般人も含めたユーザーが生成したコンテンツ

 

本稿では、IT企業のエンジニアとしてメディアエコシステムに関わってきた吉兼ひろの(よしかね・ひろの)が、Toutiaoの管理画面(呼称: ToutiaoHao)から垣間見えるUGCプラットフォームのビジネス戦略、コンテンツが集まりプラットフォームの隆盛を生み出すそのドライビングフォースについて考察してみたい。

 

プラットフォームにバズを発生させるために

Toutiaoのビジネススキームは明快だ。利益を生む「場」の形成、これに尽きる。「場」の価値が高まればそれに比例して「場」に関わる参加者全ての利益となる。プラットフォーム上ではユーザーが記事を投稿し、記事に対するPVに比例して広告モデルによるレベニューシェアを行う。

 

「場」の価値を高めるためには、まず多くのユーザーを引きつけ、サービス上に集客する必要がある。そのため、Toutiaoはトレンドを掴み、そのトピックに関するバズを場に集め、更に多くのバズを場の中で生み出す事が必要となる。Toutiaoの管理画面は、Toutiaoがこのことを強く意識し、プラットフォーム上でコンテンツが生み出される流れを後押ししようとしていることを示している。

 

以下、ToutiaoHaoの画面である。

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このように、機械的に集められたトレンディングなトピックが一覧でき、そのトピックについてワンストップでコンテンツを生成できるツールを提供している。このようなホットトピック分析とそのフリー画像まで使用可能な一気通貫の記事作成体験を提供するサービスは、日本のUGCプラットフォームではまだ存在しないのではないだろうか。 

 

レコメンドエンジンが可能にする、コンテンツが集まるほどUXが向上する世界 

前段で紹介した管理画面の構成は、彼らのコアバリューが何であるかをそのまま写し出している。Toutiao/ByteDanceのコアバリューは、レコメンドエンジンとネットワーク効果(ユーザーが増えるほど、ネットワークの価値が高まってユーザーの利益が増すこと)の合わせ技だ。

 

「場」の価値を高めるためには、まずプラットフォーム上の記事在庫を増やす必要がある。多様な記事が網羅され、このプラットフォームには世の中のトピックが網羅されているという安心感をユーザーに与えられたとき、ユーザーのエンゲージメントを高めることができる。そして、集まった膨大な数の記事はレコメンドエンジンによって多様なユーザーの嗜好とマッチングされ、ユーザーに最適な記事体験を届ける。多様な記事が集まれば集まるほど、レコメンドエンジンは多様なトピックやオピニオンの中からユーザーにとって最適な記事を配信することが可能となる。ユーザー数の増加は「場」の価値を高め、さらにコンテンツを集める結果となる。

 

Toutiaoの管理画面は、このユーザーとコンテンツ両面でのプラットフォームへの収れんを起こすために、記事収集だけではなくプラットフォーム上で記事生成をさせることが重要であることを示唆している。

 

Toutiaoのレコメンドエンジンが持つ特性の1つに、トレンディングな話題に合致する記事の露出が伸びるという点が挙げられる。我々が2019年4月に実施した記事作成者インタビューでは、PVを増やすためには管理画面上のトレンディングトピック/ホットトピックを確認する作業が必須であるという声を散見した。

 

こうしたアルゴリズム特性は、ファンを持たないクリエイターでもホットトピックに合致した良質なコンテンツを書けば、プラットフォームの助けを得て記事を拡散することができる可能性を提供している。こうした点もコンテンツ数の増加に寄与していると考えられる。インタビューの中では、Toutiaoを拡散・新規ユーザー獲得プラットフォームとして用い、その後のエンゲージメント深化はWeChatへ誘導して行うという流れも確認できた。

 

これからの時代は、プラットフォーム上でユーザーが読む記事はレコメンドエンジンのアルゴリズムが決定する形となる。レコメンドエンジンはデータがなければなにもできない。プラットフォーム上に記事とユーザーを集め続け、いかにマーケットの中でトップシェアを維持し続けるか。Toutiaoの管理画面は記事作成の障壁を下げることが記事増加の一助となることを示唆している。

 

レコメンドエンジン=仲介者が紡ぐ世界

大量の記事の中からユーザーに最適な記事を”検索/マッチング”するレコメンドエンジンアルゴリズムは、これからの時代において人々とコンテンツの仲介者として決定的な役割を果たしていくことになる。この仲介者が信用に足るものかどうか、各プラットフォームはそのレコメンドエンジンアルゴリズムの透明性を求められていくことになると考えられる。

 

近年のプラットフォームに対する批判の一つに、プラットフォーム上においてユーザーが自分に近しい属性を持つユーザーグループからの情報ばかりを消費するようになった結果、多面的なものの見方を妨げてしまうというフィルターバブル現象が起こっているというものがある。これからのプラットフォームには、こうしたフィルターバブルによる世論の分極化をどのように克服するかという視点も求められてくる。

 

Toutiaoがもつレコメンドエンジンはフィルターバブルを形成するだろうか。筆者の感覚的な分析にはなるが、プラットフォーム上に記事が豊富に登録され、ある意味で世論の鏡となった状態において、トピックが確実に把握され、トレンドも加味し、またロングテールでの記事探索も行うアルゴリズムは、ユーザーにとって多面的なコンテンツ消費体験を提供し得る可能性がある。(注:Toutiao上では、政治的な言説は当局の規制が入るため、政治的な分極化は発生しない形になっている)

 

Facebookは今年のF8において、プライベートメッセージングにより重きを置く方針を発表し、新しいコミュニティ/ユーザーとの出会いを仲介するプラットフォームとしての位置づけを示した。集団間の情報を橋渡ししたときセレンディピティが生じるといった先行研究(Burt, 2004)もあり、Facebookは今後閉じたコミュニティの間を繋ぐ中で価値を提供する仲介者として場を盛り上げていこうという意図が見える(エンジニアが知っておきたい「ニュース消費」の現在——「Digital News Report 2019」が示す3つの転換点)。

 

これに対して、Toutiaoのモデルはオープンな一つのプラットフォームを作る戦略である。このようなプラットフォームのマッチング戦略の違いが今後どのようなコンテンツ消費様式を生み出すのか、そしてメディアエコシステムはどのように変遷していくのか、今後も注意して見守る必要がある。

 

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。

 

参考:

blog.ycombinator.com

buildersbox.corp-sansan.com

Burt, R. S. (2004). Structural holes and good ideas. American journal of sociology, 110(2), 349-399.

 

著者紹介

吉兼ひろの(よしかね・ひろの)

東京の大学にて脳科学を専攻後、現在は都内のIT企業でメディアエンジニアとして企画開発に従事。2児の子育てに奮闘中。茗荷谷一幸庵の水ようかんが好き。