Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

2019年のメディア業界を漢字一文字で表すと?

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2019年もいよいよ大詰め。今年もメディア業界をめぐりいろいろな話題がありました。このMedia × Techブログの編集長を務める藤村厚夫とスマートニュースメディア研究所の瀬尾傑所長が今年一年を漢字一文字で振り返ります。

「信」あるいは「縮」(藤村厚夫)

今年に限らず、私たちは、「情報の真偽や信ぴょう性」を強く問われる時代に入っています。「メディアの信頼性」を問う声も止まりません。「広告詐欺」のような、ビジネスをめぐる「信」の問題も浮上しました。

その意味で、今年の(今年も?)メディアをめぐっては、読者や多くの消費者から「信頼」「信用」のテーマ、すなわち「信」の一文字が突きつけられていたと思います。

同時に、メディアの積極的な拡大施策への反動として収縮も起きていたように思います。

アメリカでも、メディアスタートアップのスターたちの多くが、縮小や売却を余儀なくされました。

新たな読者を力業で集めるより、リテンション(維持)をめざす動きも目立ちました。いわば縮小均衡を目指す動きです。その意味で、「縮」の一字が、今年のメディア事情を映し出しているのかもしれません。

リテンションし既存読者との篤い信頼をもとに深い関係を築くことは、広告か購読かといった選択だけでなく、さまざまに継続可能なメディアの事業を可能にします。

一方で、若く多様な層に新たな読者との出会いを築く努力を捨てることはできません。人口もまた「縮」へと向かう時代にあって、読者への「拡」と「展」をめざす試みも、2020年には見いだしていきたいと思います。

敢えての「信頼」(瀬尾傑)

かつて安倍首相は、この1年を漢字一文字で表したらという質問に「責任です」と二文字で言い切った。それにならえば、令和元年のメディアを表す漢字は、「信頼」ということになろう。

今年6月に発表されたロイター研究所の調査は痛烈だった。

「メディアは権力を監視しているか」という問いに、ドイツでは読者の37%、ジャーナリストの36%が「はい」、イギリスやイタリアもほぼ同様の回答だった。ところが日本では読者が17%しか同意しなかったのに、ジャーナリストの91%は「権力と戦っている」と信じているのだ。このギャップこそがマスコミ不信の元凶だろう。

7月に発生した京都アニメーションの悲惨な放火殺人事件でも、メディアと国民との距離があらわになった。京都府警が当初、遺族の要望を理由に亡くなった被害者の実名を発表しなかったことについて、ジャーナリズム側から捜査当局が情報を操る懸念の声は少なからずあったものの、一般の国民の間では警察の姿勢を支持する声が広まっていた。結局、全員の氏名が公表されたのは事件から1ヶ月以上が経ってからだった。

一方で、霞が関で公文書の改ざんや隠蔽が相次ぐ時代にあって、「ウォッチドッグ」としてのジャーナリズムの必要性はますます高まっている。今年も、関西電力役員らの金品受領問題や、菅原一秀経産相(当時)をはじめとする大臣たちの不祥事は、新聞、通信社や週刊誌の取材記者の活躍なしには表に出てこなかった。

だからこそ、メディアは謙虚に自らの姿勢をただすことで、信頼される存在でなければならない。京アニ事件でも、一部のテレビ局が実名報道の重要性について番組で解説をしていたのはとてもよかった。丁寧に説明し、理解を得ることは、信用を得るためにとても有効だ。

もちろん信頼が問われるのはニュースメディアだけではない。年末に総務省が発表した有識者会議の最終報告案も、ネット上のフェイクニュース対策としてプラットフォーム企業の自主的な対応を促す内容だった。

来年も信頼への取り組みがますます重要になってくることは間違いない。

 

著者紹介

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藤村厚夫(ふじむら・あつお)。現在スマートニュースにてフェローを務める。1978年法政大学経済学部卒業。90年代に、株式会社アスキー(当時)で書籍・雑誌編集者、日本アイ・ビー・エム株式会社でマーケティング責任者を経て、2000年に株式会社アットマーク・アイティを起業。その後、合併を経てアイティメディア株式会社代表取締役会長。2013年よりスマートニュース株式会社 執行役員 メディア事業開発担当(Senior Vice President of Media Business Development)など歴任。

 

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瀬尾傑(せお・まさる)。1965年、兵庫県生まれ。同志社大学卒業。88年 日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 経営企画室、『日経ビジネス』編集部など を経て退職。 93年 講談社入社。 『月刊現代』、『週刊現代』編集部などを経て、『現代ビジネス』創刊編集長、第一事業戦略部部長などを歴任。2018年8月にスマートニュースに入社、『スマートニュース メディア研究所』の 所長に就任。19年2月にスマートニュースの子会社として設立されたスローニュースの社長を兼務。ジャーナリズムの発展や調査報道の支援に従事する。

 

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。