Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

読者との関係深めるニュースレター 有料会員転換で確かな手応え 朝日新聞デジタル

 

じっくり読ませる記事がトップに選ばれる、朝日新聞デジタルのニュースレター(スクリーンショット)

じっくり読ませる記事がトップに選ばれる、朝日新聞デジタルのニュースレター(スクリーンショット)

サブスクリプション(定期購読)を展開するニュースメディア各社が、有効なマーケティングファネルを模索する中、朝日新聞社はニュースレターに力を入れている。朝日新聞デジタル(以下、朝デジ)の会員に毎日届けられるEメールをタッチポイントとして、エンゲージメントの深化、さらには有料会員への転換を期待しており、昨春のリニューアル以来、確かな手応えを感じているという。

同社編集局コミュニケーションチームを率いるソーシャルメディアエディター、田中志織氏に話を聞いた。(Media×Tech編集部)

独自の編成方針

——ニュースレターの配信頻度は?

朝デジの会員数は375万人で、このうち有料会員は約32万人(5月末現在)。全ジャンルから記事を選ぶニュースレターは朝と昼の2回配信(昼は平日のみ)で、金曜日にウィークリー版も配信している。内容は基本的に、無料会員と有料会員いずれも同じ。編成は、朝は朝日新聞デジタル編集部、昼はコミュニケーションチームが担当している。

——ニュースレターは、朝デジと同じ編成方針か?

ニュースレターの記事の並べ方は朝デジと異なる。模索中だが、ニュースレターは、落ち着いて読めるもの、そして、他では読めないものを意識して選んでいる。トップ記事は、(朝デジではトップとなる)速報やストレートニュースより、読み物やサイドストーリーを優先して選んでいる。

メールを受け取った時に情報が古くなっているといった齟齬がなければ、配信当日の記事かどうかにはこだわっていない。朝デジでページビュー(以下、PV)が伸びなかった記事でも、PV以外のデータも見ながら「もっと読まれても良いはずだ」「読者に出会ってもらえていないだけじゃないかな?」と考えられる記事を、ニュースレターのトップで扱うこともある。

——メールの件名が工夫されていて、つい気になって見てしまうと、「Media × Tech」編集部内でも話題になっている

トップ記事は、メール開封率に大きく影響するので慎重に選んでいる。ニュースレターの場合、ファーストタッチがメールの件名情報しかない。どんなに良い写真が記事についていても、件名でメールを開封するかどうかが決まる。さらに短い文字数で端的に伝えた方が良い場合や、違う表現の方が余韻が生まれると判断した場合、記事タイトルを変える時もある。

——HTMLメールなので、開封するとビジュアルでも訴求できる。先日のニュースレターでは、「ノモンハン 大戦の起点と終止符」の連載企画が目についた

ニュースレターは朝デジの読者に届けているので、読者の満足度が高くなるだろう記事を選んでいる。リッチな閲覧体験を提供する「PREMIUM A」や音声で届けるポッドキャストといった新しい取り組みも始めているので、そういう朝デジならではのコンテンツを訴求するツールとしても、ニュースレターを活用している。「ノモンハン 大戦の起点と終止符」は、「PREMIUM A」の一企画だ。

時間をかけて取材→コンバージョン

オンラインで取材に応える朝日新聞ソーシャルエディター、田中志織氏

オンラインで取材に応える朝日新聞ソーシャルメディアエディター、田中志織氏

——どのようなKPIを見ているか?

2019年春、ニュースレターをHTMLメールにリニューアルし、既存顧客の維持(以下、リテンション)と無料会員から有料会員への転換(以下、コンバージョン)の二つを重視して取り組んできた。開封率とCTRも見ている。これらの中で、コンバージョンの効果が想定以上に高いことが分かってきた。この約1年間でその手応えをつかみ、ニュースレターをさらに進化させるためにはどうしたら良いか今、社内で検討している。

——どういう記事がコンバージョンが良いかなど、言語化できているか?

こういうジャンルの記事は開封されるだろうなとか、このシリーズは強いだろうなとか、そういう肌感覚はチーム内で共有できている。実際、コンバージョンが高くなりそうだと判断した記事をニュースレターのトップに置くと、反応が良い。じっくり時間をかけて取材をした企画物は強いなという印象だ。

——時間をかけて取材をした企画物が定量的にビジネスに貢献するとすれば、記者のモチベーションと連動する

そうだ。例えばコロナ禍では、著名な方のインタビューシリーズをトップ記事にしたニュースレターのコンバージョンが非常に高く、読者の満足度も高かった。オールドメディアならではの著名人へのアクセスのしやすさが活かせた。在宅の時間も増えているだろうし、先行きが見えない中で、じっくり読むコンテンツが求められていたのだと思う。わたしたちの強みと会員のニーズがマッチしたのだろうと、インタビューシリーズの担当者と総括している。

——チャットツールが浸透し、Eメールが下火になった印象も一時はあったが、一周回って近年ニュースレターが熱いという話を聞くようになった

ニュースレターが確実に届いているという手応えがある。無駄のない届け方ができるメディアなんだなという思いを強くしている。 

また、読まれ方の特徴として、ニュースレターは、意外と長期間にわたって開封される。もちろん、届いた直後が一番開封数が多いのだが、時間のある時に読もうということなのか、時間が経過してから開封されることも多い。

考えてみれば当たり前だが、ニュースレターの受信に同意してくださっている読者に届けているので、その時点で朝日新聞に関心を寄せてくださっている方々だと言える。がっかりさせないように意識してニュースレターを編成している。その意味で、コンバージョン率は、読者に喜んでもらえている指標の一つと捉えている。

記者の個性や体温を伝えたい

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この夏始まった、新形式のニュースレター「アナザーノート」(スクリーンショット)

——この夏、新しい形のニュースレターがスタートした

コンバージョン目的ではなく、読者のエンゲージメントをより高めるために「アナザーノート」という新たな施策に取り組み始めた。 

取材ノートの中から、記事にはできていない舞台裏をお届けするニュースレターだ。朝・昼のニュースレターはリンクから朝デジに誘導する形だが、「アナザーノート」は本文すべてをメール内で読むことができる。より独立したメディア感を強めようと思っている。記者を前面に出し、読者に語りかけるような書き方をしているのも特徴だ。8月末に0号を配信し、9月6日から毎週日曜日の昼にお届けし始めた。

0号で、秋山訓子編集委員による記事「善人は総理になれないか 小川議員の夢と山崎拓氏の即答」を配信したところ、ネット上で「秋山さんのニュースレターが良かった」といった反応もあり、記者の個性や体温を伝えたいという意図が伝わってうれしかった。 

——今後の展開は?

会員のセグメント別のニュースレターの出し分けも検討している。どういう切り分けが良いのか、セグメントの設定の仕方を考えている。

また、現在読み物中心に記事を選んでいることもあり、短時間でさっと読めるものがあってもいいかもしれない。ニューヨーク・タイムズのように、ブリーフィングのニュースレターも検討したい。

ニュースレターを通じて、受け取ってくれた方の日常が少しでも豊かになれば良いなと思っている。今日はどんなものが届くのかなと、毎日楽しみにしていただけるように改善を重ねていきたい。

 

www.mediatechnology.jp

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筆者紹介

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荒牧航(あらまき・わたる)

スマートニュース株式会社コンテンツアソシエイト。慶應義塾大学文学部卒業、千葉日報社にて記者、経営企画室長、デジタル担当執行役員を歴任。日本新聞協会委員としても活動後、2019年9月にスマートニュース株式会社へ参画。中小企業診断士としてメディアコンサルティング等にも携わる。

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。