Media × Tech

「Media × Tech」ブログはスマートニュースのメディア担当チームが運営するブログです。テクノロジーを活用した次世代のメディアとはどういうものか? そうしたメディアをどうやって創り出していくのか、を考えていきます。

Web3とニュースの未来 SlowNewsイベントレポート

「Web3とニュースの未来」をテーマに対談した瀬尾氏(写真左)と佐々木氏

調査報道のエコシステムづくりを目指すスローニュース(東京都渋谷区、瀬尾傑代表)は7月12日〜21日、「Web3×SlowNews Garage」と題したイベントを東京都千代田区のMarunouchi Happ. Stand & Galleryで開催しました。一連のトークイベントの一つとして、国内外のWeb3(ウェブスリー)事例を調査し自らもプロジェクトに取り組む佐々木大輔・スマニューラボ取締役研究員に、瀬尾代表が疑問・質問をぶつける形での対談も実施。ブロックチェーン技術を基盤に社会に変革をもたらすとされるWeb3とニュースメディアの未来について語り合いました。(Media×Tech編集部

メディアの再誕生?

Web3の概念については、各所でさまざまな説明が試みられていますが、本イベントでは「ブロックチェーンをベースにした製品、サービス、ビジネス、カルチャー、あるいはムーブメント」を指すものとしてトークが展開されました。

佐々木氏は、Web3の4大ジャンルとして

「DeFi(Decentralized Finance)」

「BCG(Blockchain Game)」

「NFT(Non-Fungible Token)」

「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」

があるとした上で、「メディアがNFTやDAOを活用したりはするが、メディアが(これら4つと並ぶような主要な)ジャンルになっているわけではない」と指摘します。NFTがデジタルコンテンツを対象としていることを踏まえ、瀬尾氏は「本来、コンテンツはメディアの一番得意なところのはずだが、なぜ、メディアはうまく(Web3に)取り組めていないのだろうか」と問題提起。これに対し、佐々木氏は「Web3では、これまでとはまったく違う形でメディアが再誕生するのではないかと考えている」と返します。

「100 True Fans」

出典:Li Jin「About Me Newsletter Recent Posts Art」

佐々木氏によると、世界的に最も人気の仮想通貨ウォレット「MetaMask」の月間アクティブユーザーは全世界で約3000万人。現在のWeb3のユーザー数の規模感は、1995年当時のインターネット接続者数と同規模とのこと。メディアで紹介されることも増えるなど盛り上がりを見せるWeb3ですが、佐々木氏はまだまだ初期段階であることを強調します。

佐々木氏は、多くのユーザーにリーチする無料の広告モデルや、一定数のユーザーに定額課金するサブスクリプションモデル、あるいはこれら二つを組み合わせたフリーミアムモデルが展開されてきた中で、例えばNFTを使ったビジネスのコンセプトとして、少数のファンに高額の支払いを期待するWeb3モデルが提案されている、と紹介。

「クリエイターエコノミーの文脈では以前から、年間1人当たり100ドル支払ってくれる『1000 True Fans(千人の本当のファン)』がいたらクリエイターが食べていけると言われてきたが、Web3の時代ではさらに小さく『100 True Fans』がより高額を支払ってリッチな体験をしてもらうビジネスが実現できるのではないかと話されている」(佐々木)

Web3における「コミュニティ」

「実感として、Web3は個人との相性が良さそうだ」と話す佐々木氏に対し、瀬尾氏は「確かに個人だと価値観や世界観を伝えやすいし、ファンとの距離感が近くなる。そうすると、コミュニティ運営が必要になってくるが、ジャーナリストはコミュニティ作りが必ずしも得意ではない。その点、どうしたら良いだろうか。人間関係が得意ではない人が面白いコンテンツを作ったりもする」と疑問を投げかけます。

佐々木氏は「コミュニティには二種類あって、掲示板やSNSなどのサービスにおけるような昔ながらの意味では、例えばジブリ映画好きのように共通の趣味の人たちが会話したり働きかけたりすることをコミュニティと呼んできた。しかし、自分が(Web3の取り組みの中で)体験したコミュニティとは、『皆で同じアセット(資産)を共有している人たちの集団』のことだ」と説明。

「ジブリ映画好きの人たちは、ジブリ映画の価値をアセットとして共有していない。ジブリ映画の価値が上がろうが下がろうが、自分の生活とは関係がなく、同好会のようなものだ。一方で、例えば川で釣りをする人たちの間では、川の資源というアセットを共有しており、その価値の上下が自分たちの生活に直結している。これまでのインターネットが可視化してきたのは、オンラインの同好会としてのコミュニティで、Web3文脈を通じて今後オンライン化・可視化が進むと面白そうだと考えているのが、(マンションの理事会、PTA、猟友会、釣りの友の会など)現実にアセットを共有するコミュニティだ。つまりジャーナリストが作るべきコミュニティは、後者のほうではないか。人間関係の調整に走り回る同好会の幹事ではなく、あるテーマに対して読者とアセットを共有し、その価値を守り向上させようというコミュニティのほうではないか。そのテーマに対して『自分もそう思う』『そこが良くなったら自分たちの生活も良くなる』というアセットを共有する人たちが集まっていれば、ジャーナリストがおしゃべり上手であるかどうかは重要ではないだろう」(佐々木)

メディア関係者を含む約30人が集まった会場からは「ハードニュースで、(少数のファンが高い金額を支払うコミュニティの)熱狂を作っていけるのか」「ビジョンはアセットになりうるのか?」といった質問も。1時間半にわたった本トークイベントでは、国内外のメディアによるWeb3の取り組み事例のほか、スローニュースのDiscordコミュニティも紹介されました。

 

www.mediatechnology.jp

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筆者紹介

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荒牧航(あらまき・わたる)

スマートニュース株式会社コンテンツプログラミング・マネージャー。慶應義塾大学文学部卒業、千葉日報社にて記者、経営企画室長、デジタル担当執行役員を歴任。日本新聞協会委員としても活動後、2019年9月にスマートニュース株式会社へ参画。中小企業診断士としてコンサルティング等にも携わる。

本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。